yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

「池袋がんクリニックの『さい帯血幹細胞移植療法』とは何か?」

「さい帯血移植」をご存知でしょうか?

 

さい帯の中には血液の元になる造血幹細胞が豊富に含まれており、骨髄移植や末梢血幹細胞移植と並んで難治性の造血器腫瘍の患者さんを救命しえる有用な治療法の一つとしてその意義を高めています。特に、血縁者や骨髄バンクHLA適合ドナーが見つからない、あるいはそのコーディネートを待つだけの猶予がないなどの場合には、代替ドナーソースとしての地位を確立しています。

 

しかし、Googleあたりで「さい帯血移植」と検索しますと、トップページの広告欄に『さい帯血移植療法でがん治療/池袋がんクリニックhttp://bit.ly/17LqAiv)』の文字が真っ先に飛び込んできます。移植医療の難しさを知る一人の人間としては「クリニックでさい帯血移植?」と眉を顰めずにはいられません。

 

リンク先では『「あきらめないがん専門クリニック」として、進行がんを積極的に治療します』と力強く宣言がされています。免疫細胞療法を主体とした自費診療クリニックです。「標準治療では手の施しようが…」と言われてしまった方々にとっては、さぞかし幻影的な希望の光のように見えてしまうのだろうと思います。

 

その中に「さい帯血幹細胞移植療法」(http://bit.ly/17Lr9sAの文字が見て取れます。さい帯血を利用してアンチエイジングを謳う再生医療系(例えば→さい帯血幹細胞アンチエイジング協会(http://bit.ly/174XIna)は少なくないですが、免疫細胞療法としてさい帯血を利用しているクリニックはあまりお目にかかったことがありません。

 

中を覗いてみるとそのお粗末さ加減に愕然とします。一移植医としては、批判をするのもバカらしいレベルなのですが、騙されて苦汁を飲まされる方が一人でも少なることを期待して、あえて批判をさせていただくことにします。

 

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まず、最初に文面を読んでいきます。

 

白血病、骨髄異形成症候群の患者様に朗報!!さい帯血幹細胞移植療法」

 

と大きく記載されています。造血器腫瘍の患者さんを対象にした治療のようです。

 

さい帯とは、赤ちゃんと胎盤を結んでいるへその緒のことで、このさい帯には血液が満ちており、その血液中には、幹細胞がたくさん存在します。

さい帯血には、骨髄と同じように、健康な赤血球や白血球、血小板などの血液を作り出す細胞(造血幹細胞)も豊富に蓄えられているために、白血病や、再生不良性貧血、免疫不全症、遺伝病などの血液の難病に苦しむ人たちに移植することにより、その治療に役立てることができます。

 

これは私の知るさい帯血移植と同じものです。

 

幹細胞は、さまざまな細胞になる能力や、分裂し増殖する能力をもち、身体のさまざまな臓器や組織をつくる元になる細胞なのです。

 

おや、なんだか一気に雲行きが怪しくなってきました。先程までは、造血幹細胞のことを「白血球、赤血球、血小板などの血液を作り出す細胞」と紹介していたはずですが、急に「身体のさまざま臓器や組織をつくる細胞」と拡大解釈をし始めました。

 

胎児や、子供の身体には、この幹細胞がたくさん存在するのですが、老化と共に減少し、臓器や組織が傷ついたり、突然変異を起こしたりしても、その修復や入れ替えが追いつかなくなり病気が発症するのです。

 

「人間が病気になるのは幹細胞の減少が原因」という内容に読めますが、これは事実ではありません。造血幹細胞の質的、数的異常に起因した病気があるのは事実ですが、幹細胞と無関係に発症する病気も無数にあるのです。「幹細胞を補いさえすれば病気にならない」という印象を与えており不適切と言えます。

 

幹細胞がたくさんあれば、幹細胞がその臓器、組織の細胞になることによって、修復が可能になり、がんに変異した細胞をも正常な細胞に入れ替えることが期待できます。

 

だんだんアントニオ猪木(元気があれば何でもできる)みたいになってきてしまいました。最近注目されているiPS細胞に込められた期待のすべてをさい帯血幹細胞に投影したような表現です。最初に「白血病、骨髄異形成症候群の患者様に朗報!!」と言っていたはずなのに、いつの間にか対象が全てのがん患者さんに入れ替えられてしまいました。

 

注入された数億個の幹細胞は、血流に乗って全身を巡り、全身を活性化します。そして悪いところ、細胞の足りないところで効果を発揮するのです。

この作用により、現代医学を超える効果をもたらしていると考えられます。

 

最終的にはスピリチュアルでスペーシーな展開となりました。単にさい帯血を注入したところで、注入された数億個の幹細胞は、確かに血流に乗って全身を巡るかもしれませんが、残念ながら全身を活性化することもないと思いますし、悪いところ、細胞の足りないところで効果を発揮することもないと思います。

 

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これは造血細胞移植医療をあまりに理解されていない内容と言わざるを得ません。この程度の知識しか持ち合わせていない人間が移植医療を行うのは極めて危険なことです。

 

造血幹細胞移植を行うためには、「移植前処置」が必要不可欠です。造血幹細胞の移植に先立って行う抗がん剤治療や放射線治療のことです。移植前処置には主に「抗腫瘍効果」「骨髄スペースの確保」「免疫抑制効果」の3つの目的があります。

 

腫瘍細胞が盛大に残っているところに、少数の造血幹細胞を入れてもなかなか太刀打ちすることはできません。その為に、移植に先立って腫瘍細胞をなるべく減らしめておく必要があります。

 

また、造血幹細胞は骨髄中のniche(ニッチェ)と呼ばれる空間に存在すると言われていますが、レシピエントの造血幹細胞がnicheに残っていると、ドナーの造血幹細胞が居場所を得られずに分化、成熟することができません。レシピエントの造血幹細胞をnicheから追い出して、ドナーの造血幹細胞のための座席を確保しておく必要があります。

 

そして、レシピエントの免疫が残っていると、移植したドナーの細胞が拒絶(排除)されてしまいます。ドナーの細胞が拒絶されることなく生着するためには、レシピエントの免疫担当細胞を数的・質的に減弱させておく必要があります。

 

こられのステップを踏むことなくさい帯血を移植したところで、治療効果は殆ど期待できません。

 

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治療効果がないというだけなら身体的なダメージを被ることはありませんが、このクリニックの方法では深刻な合併症が起こることが危惧されます。

 

さい帯血の幹細胞を移植するには、まず血液のタイプを調べるためHLAタイピング検査を行います。約2mlほどの採血でOKです。実際の治療は、タイプのあった幹細胞を点滴で注入するだけです。

 

さい帯血を移植するのだからHLA(ヒト白血球抗原:簡単にいえば、ABO血液型は赤血球の型で、HLAは白血球の型)を一致させるのは当たり前でしょ、ということなのでしょうか。しかし、何の予防策も講じないでさい帯血を移植した場合、下手にHLAを一致させることにより、逆に危険性が高まってしまうと予想します。

 

理由を説明します。

 

輸血において、血縁者(親子や同胞など)間輸血の回避が推奨されていることをご存知でしょうか?

日本輸血・細胞治療学会「輸血後GVHD対策小委員会報告」(http://bit.ly/1756gKN

 

人間の免疫では、HLA(だけではありませんが)の相違で「自己」と「非自己」を認識しています。HLAが異なると「非自己」と認識して拒絶を起こし、HLAが同一であれば「自己」と認識して寛容されるわけです。

 

血縁者輸血では、レシピエントとドナーの間で同一のHLAを共有している確率が高まるため、レシピエント体内に入ったドナー細胞が「自己」と認定され、拒絶されずに生着してしまう恐れがあります。一度生着したドナー細胞は、逆にレシピエントを攻撃し始めます。これを(輸血後)移植片対宿主病(GVHD)と言います。

 

GVHDとは「移植片対宿主病」を表す略ですが、「移植片(Graft)」「対(versus)」「宿主(Host)」「病(Disease)」と分解すると「移植片と宿主が対決する病気」とイメージしやすくなると思います。主に、皮膚、消化管、肝臓を標的臓器として、熱傷に似た皮膚症状、下痢・下血、黄疸などを呈して致死的な経過をたどります。

 

つまり、HLAが類似したドナーから輸血を受けると、GVHDを発症するリスクが高くなるのです。逆に、レシピエント体内に入り込んだドナー細胞がしっかり拒絶されるためには、HLAが全く一致していない赤の他人の方が確実で安全なのです。

 

一方、さい帯血移植においてはドナー細胞を生着させることが目的になりますから、HLAを一致させる必要があります。HLAが一致していないと、せっかく移植したドナー細胞が拒絶されてしまいます。そして、生着後に重症なGVHDが起こらないように免疫抑制剤で予防を図るわけです。HLAが一致していて、かつ免疫抑制剤によって厳重にGVHD予防を行ったとしても、さい帯血移植では40-50%程度のGVHDが発症することが知られています。

 

では、GVHD予防なしでHLAが一致したさい帯血の移植を行った場合はどうでしょうか?そもそも移植前処置もしていませんから、多くは拒絶されるようにも思いますが、一定の確率でレシピエントの免疫監視の目を潜り抜けたさい帯血の細胞が生着し、GVHDを誘発する事例が出てくることが予想されます。特に、このクリニックの門を叩いてしまうような方々は、様々な治療を受けてきており、免疫機能が低下しているであろうと思われますから、なおさらの高リスクと言えます。免疫抑制剤なしのノーガードですから、重症化はまず免れようがありません。矢吹丈のノーガード戦法のようにことが上手く運ぶとは思えません。

 

このクリニックのセッティングでさい帯血移植を行うのは非常に危険です。にもかかわらずこのクリニックでは、自分たちのさい帯血幹細胞移植療法は非常に安全だと主張しています。

 

少々の発熱(37℃~38℃ほど)があったり、眠い、だるい、などがあるくらいで、それらは自然退縮し、ほとんど副作用はありません。

 

このクリニックのさい帯血幹細胞移植療法において、もし本当にGVHDを含めた副作用がこれまで一切起きていないのだとしたら、何かトリックがないと説明がつきません。

 

幾つか考えられる方法を自分なりに考えてみます。

①輸血製剤と同じように、白血球除去処理、放射線照射を行っている。→もちろん幹細胞も除去されるでしょうけど。

②あえてHLA不一致のさい帯血を用いている。→これならしっかり拒絶されると思います。

③さい帯血ではない(同種細胞を含まない)ものを用いている。→(((( (((( ;゚Д)))))))

などでしょうか。これらの方法ならリスクを最小限に減じることができます。いずれにしても効果もクソもなくなるとは思いますが。少々悪意のある想像を膨らましてしまいました。

 

あるいは、GVHDは移植後数週間以上経ってから発症するため、「移植が原因ではありません」「病気が進行したのでしょう」なんて説明で言い逃れしている可能性もあるかもしれません。

 

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またこの中で、さりげなく「ホゾティ(HOZOT)」についても言及しています。

 

さい帯血中に抗がん作用を持つ細胞も発見されています。(ホゾティーという細胞です)

 

HOZOTに関しては「日本臨床免疫学会誌 2009; 32: 223-230.http://bit.ly/17LAgtk)」に詳しい記載があります。フリーダウンロードが可能です。

 

簡単に言うと、HOZOT2006年に林原生物化学研究所(現株式会社林原)のグループにより発見された、ヒトのさい帯血から誘導された制御性T細胞の1種です。本来の免疫を制御する作用の他に、がん細胞に対する細胞障害性も併せ持つというユニークな細胞です。「臍(へそ)」を意味する「ほぞ」とT細胞の名前をとり「HOZOT(ホゾティ)」と名付けられたそうです2006124日プレスリリース, http://bit.ly/17M1VKr

 

また、HOZOTはがん細胞の内部に侵入して死滅させる「トロイの木馬cell-in-cell)」現象を起こすことが確認されており(下写真)、細胞自身による直接的な抗がん作用と、がん細胞への効率的な抗がん剤のデリバリー作用との両方面で期待されています2010915日プレスリリース, http://bit.ly/1753hSu, J Mol Cell Biol. 2010; 2: 139-151., http://bit.ly/1754jOd

 

しかし、よく考えてみてください。がん細胞に侵入したHOZOTはがん細胞と共に死んでしまうので、一定量のがん細胞を死滅させるためには、それに見合うだけの数のHOZOTを準備することが求められます。そのためには効率よくHOZOTを拡大培養する技術が必要です。

 

しかし、現時点でHOZOTの拡大培養は容易ではありません。まず、さい帯血から単核球を分離し、マウスのストローマ細胞と23週間共培養するとHOZOTが誘導されます。ちなみにヒトのストローマ細胞では誘導されません。次に、このHOZOTを新しいストローマ細胞の上に継代してIL-2などの増殖因子を加えることで更に12週間拡大培養するわけです。つまり異種抗原への暴露下に長時間培養する必要があるわけです。しかし、この手法をもってしてもHOZOTの誘導成功率10%程度に過ぎないそうです。

 

更に、現段階でHOZOTの抗がん作用はvitro並びに動物実験の段階で認められているに過ぎず、実臨床への応用のためには幾つものハードルを越えることが必要です。

 

つまり、普通にさい帯血幹細胞を移植したところでHOZOTの活躍はおろか、HOZOTそのものにすらお目にかかることはできないのです。

 

しかもですよ、同グループは、HOZOTによる抗がん作用は、付着性の固形がん細胞株には広く確認できるものの、白血病細胞や悪性リンパ腫などの浮遊性の腫瘍細胞株に対しては見られない、とまで言っているのです。

Int J Oncol. 2011; 38: 1299-1306.http://bit.ly/1754ARl

 

どうせ素人には分かるまいと、心地よさそうな情報を貪欲に提示してより魅力的に見せよう、より期待感を醸し出そうとしているわけですけど、結果的には墓穴を掘ってトコトン信頼性が損なわれているわけです。

 

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先人たちの、この中には医療者のみならず被医療者も含みますが、多くの長きに渡る涙と努力と経験の上に、改善に改善を重ねてきたさい帯血移植が、このような形で悪用されていると思うと、本当に悔しいですし、はらわたが煮えくり返る思いです。

 

そして表題の「池袋がんクリニックの『さい帯血幹細胞移植療法』とは何か?」に回答をつけさせていただきます。

 

「(HLAが本当に一致しているかどうかも分からない)さい帯血(と思われるもの)を移植するモーションを見せることで患者の精神的欲求を満たすことを主目的とし、医学的な抗腫瘍効果は殆ど期待できないどころか、理論的には致死的な合併症まで起こす危険性のあるヤバイ治療です。

 

設定された料金も含めて悪質度は極めて高いと思います。このような医療者に法的な制裁を与える方法はないのでしょうか?

「多発性骨髄腫の患者さんのカルシウムサプリメントはどこまで許容されるか?」

久しぶりのブログ更新です。

 

かつてなかなか治療に反応しない高カルシウム(Ca)血症を呈した多発性骨髄腫の患者さんを担当した経験があります。その方の場合、よくよく話を伺いますと、ご家族の中に分子整合栄養医学協会(http://bit.ly/14FVvgTに所属されている方がいて、「多発性骨髄腫は骨が脆くなる病気だから、Caで骨の強化を図るのが基本」とのことでせっせと患者さんにサプリメントやサメの軟骨を服用させていたという事実が判明しました。正直に申し上げて、私個人の中には、多発性骨髄腫の患者さんにCaを投与するという概念がなかったものですから、大変に面食らったわけです。

 

「多発性骨髄腫にCaを使用する」という方法は、どの教科書を紐といても記載がありませんし、NCCNガイドライン®2013年度日本語版http://bit.ly/13wm7xGの補助療法の項にも見当たりません。ただし「Caが丈夫な骨格をつくる」という文言は幼少期から繰り返し聞かされた周知の事実でもあり、やたらと牛乳を飲まされたり小魚を喰わされたりしたものです。では、なにゆえ多発性骨髄腫の患者さんに推奨されていないのでしょうか?はたまた、Caの摂取は許容されないのでしょうか?

 

 

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   Caは多発性骨髄腫の病態にどのような影響をもたらすのか?

 

多発性骨髄腫は形質細胞が悪性腫瘍化する病気です。その腫瘍細胞からは骨を壊す破骨細胞を活性化する因子と、骨を造る骨芽細胞を抑制する因子が放出されており、骨吸収の促進と骨形成の抑制から骨の溶解が起きます。その結果として骨折しやすくなるのみならず、骨からのCaの喪失と高Ca血症が起きるわけです。

 

Ca血症の症状はとても幅広いです。食欲低下、便秘、消化性潰瘍などの消化器症状、集中力の低下、人格変化、無気力、意識障害などの神経精神症状、徐脈、房室ブロックなどの循環器症状、そして腎尿細管での尿濃縮能の低下から多尿をきたし、口渇、脱水、腎機能障害の原因にもなります。多発性骨髄腫では腎不全を合併しやすことも知られていますが、高Ca血症は腎不全の増悪因子でもあり、またそれ自体が致命的にもなり得るということです。

 

この様な病態にCaを投与すべきでしょうか?答えは考えるまでもなく「No」です。

 

Ca血症を伴う悪性腫瘍の患者さんが、サプリメントやサメの軟骨を不適切に摂取したことにより、重篤な高Ca血症に進展したという症例はなにもここだけに限った話ではありません。

Support Care Cancer. 2003; 11: 232-235.http://bit.ly/13pYsyU

 

少なくとも高Ca血症や腎不全を伴うような初発時や病勢コントロールが芳しくない時期には、Ca摂取が事態の悪化を招く危険性があり、摂取は控えた方が良い、ということに異論の余地はないと思います。

 

   Caは多発性骨髄腫の骨関連事象を減らしめるのか?

 

多発性骨髄腫はとにかく脊椎、肋骨、骨盤骨などに病的骨折をきたしやすい病気です。骨折は疼痛のみならず、時に下肢の麻痺や膀胱直腸障害などの脊髄圧迫症状をも伴い、著しく生活の質を落としめます。そのため、多発性骨髄腫の治療においては、化学療法と共に、どれだけ骨折や骨痛といった骨関連事象を減らすことができるか、もまた命題の一つとなっています。

 

現時点で、多発性骨髄腫での骨関連事象を減らしめる効果が明らかになっているのはビスフォスフォネート(BP)製剤だけです。特にゾレドロン酸は、骨関連事象のみならず多発性骨髄腫の生存期間を延長することも知られており、それ自体の抗腫瘍効果も示唆されています。しかし、腎機能障害や顎骨壊死などの重大な副作用もあるため、腎不全や歯科治療を要するような齲歯を伴う患者さんでは使用を控えるのが一般的です。

JCO 2013; 31: 2347-2357.http://bit.ly/13ysUXw, Blood 2013; 121: 3325-3328.http://bit.ly/13yt5lJ

 

ちなみに強力な新しい破骨細胞阻害薬であるデノスマブが、多発性骨髄腫の患者さん骨関連事象に関して、ゾレドロン酸に非劣性を示したという試験もありますが、多発性骨髄腫患者さんのサブグループ解析では、デノスマブ群の生存期間が有意に短いことが示されており、ゾレドロン酸に先立って使用されることはありません。

JCO 2011; 29: 1125-1132.http://bit.ly/16PDw6C

 

一方、骨の形成・強化のためには骨の主要構成成分であるCaの摂取が必須である、ということもまた事実です。多発性骨髄腫の骨関連事象を減らしめる目的としてCaを投与する試みはなかったのでしょうか?

 

調べてみたらありました。19601980年代と少々時代を遡りますが、Caをフッ化物やビタミンDと併用した治療の試みです。そのうちの幾つかでは、骨塩量が上がるとかレントゲン像が改善したなどの結果が認められていますが、骨関連事象を減らしめたとか、骨痛を緩和したなどといった実証はありません。検査所見は改善しても、それが自覚症状やQOLに反映しなければそれは自己満足に過ぎません。実際に、1985年以降は報告が途絶えています。

JAMA 1966; 198: 583-586.http://bit.ly/15V4wF8, NEJM 1975; 293: 1334-1338.http://bit.ly/15V5AsG, Cancer 1980; 45: 1669-1674.http://1.usa.gov/15V66a6, Blood 1984; 63: 639-648.http://bit.ly/13odODU

 

BP製剤の骨関連事象を減らしめる効果が明らかとなっている現在において、あえてそこにCaを上乗せするメリットは、あっても小さいものと考えます。ただし、BP製剤を使用できない患者さんにおいては、病勢が安定している(高Ca血症や腎不全がない)という条件下であればCa摂取は許容されると思います。

 

   ステロイドBP製剤を使用するとCaが欠乏するのか?

 

多発性骨髄腫の治療にはステロイドの使用が欠かせません。ステロイドには消化管からのCa吸収を抑制したり、尿中へのCa排泄を促進したりする作用があります。

ICUCCU 2011, 35, 597.

 

また、BP製剤にも低Ca血症の副作用が出現することがあります。最も使用されるゾレドロン酸(ゾメタ®)の場合、製造販売元であるノバルティスファーマ「使用上の注意(http://bit.ly/13wBy96)」によれば、低Ca血症は212%に出現し、「必要に応じてCa及びビタミンDを補給させるよう指導すること」と記載されています。

 

国際骨髄腫ワーキンググループ(http://bit.ly/14TyYgPによる多発性骨髄腫の骨病変治療の推奨においても、BP製剤使用中の低Ca血症に対して「Calcium and vitamin D3 supplementation should be used to maintain calcium homeostasis (grade A).」と記載されています。

JCO 2013; 31: 2347-2357.http://bit.ly/13ysUXw

 

日本骨髄腫患者の会(http://bit.ly/14mff66が発行しているデキサメタゾンなどのステロイド剤の理解(http://bit.ly/15UXz73)」P10にも、デキサメタゾンなどのステロイド剤の投与により、「カリウムK)とCaの排泄量の増加が引き起こされる場合」があるため、「失われたKCaを補うサプリメントの摂取を行なわなければなりません」との記載が見られます

 

また、ステロイドには尿細管でのナトリウムの再吸収とKの排泄を促進する鉱質コルチコイド作用があります。低K血症の存在下に低Ca血症低が起こるとQT延長の助長から不整脈が誘発されやすくなることも知られています。

 

よって、ステロイドBP製剤の使用中はKCaが共に低下する可能性があり、定期的に電解質モニタリングして低Ca血症があれば補正を検討した方が良いと考えます。

 

ただし、多発性骨髄腫の治療で使用されるステロイドは、鉱質コルチコイド作用を殆ど有さないデキサメサゾンが主体であり、個人的にはKCaの補正を強いられた経験は殆どありません。

 

   Caステロイド骨粗鬆症の予防に有用なのか?

 

多発性骨髄腫の治療においてはデキサメサゾンを中心としたステロイドの使用が必須です。ステロイドは、主に骨芽細胞のアポトーシス誘導により骨形成能の低下をきたし、そして骨粗鬆症や骨壊死の原因となります。多発性骨髄腫自体でも病的骨折を起こしやすいだけでなく、その治療の影響でも骨折を起こしやすくなるのです。非常に厄介です。

 

多発性骨髄腫の骨関連事象を減らしめるためにはBP製剤が有用でした。では、ステロイド骨粗鬆症の予防を講じるためには何が必要なのでしょうか?

 

下記のようなステロイド骨粗鬆症の総説があり参考になります。

BMJ 2006; 333: 1251-1256.http://bit.ly/13ogT76, Mayo Clin Proc. 2006; 81: 662-672.http://bit.ly/13oh3ex, NEJM 2011; 365: 62-70.http://bit.ly/13wOmfD

 

根本的にはステロイドの使用を最低限に抑えることが必要なのですが、基本となるのは禁煙、アルコール制限、荷重を加えた身体運動、転倒の防止などの生活指導(危険因子の除去)です。では薬剤による予防はいかがでしょうか?

 

ステロイド使用に伴う骨折を減らしめる効果が実証されているものには、BP製剤の他にヒト副甲状腺ホルモン製剤(テリパラチド)があります。しかし、後者は形質細胞腫瘍を悪化させる危険性が示唆されており使用は控えるべきです。

BMJ Case Reports 2010; doi:10.1136/bcr.01.2010.2681http://bit.ly/16PHn3H

 

コクランライブラリー(http://bit.ly/13of2PJにおいても、日本骨代謝学会(http://bit.ly/14mfGxbによるステロイド骨粗鬆症の管理と治療のガイドラインhttp://bit.ly/13wPuzZ)」においても、投薬あるいは食事としてCaとビタミンDを補充すべきとされています。骨折の予防効果は得られずとも、骨塩量の減少を食い止める効果は認められていますので、BP製剤を一次治療として、二次治療としてCaの補充を考えても良いかもしれません。

 

少々話が逸れますが、個人的にはもう一つ気を付けていることがあります。それは、なるべく「プロトンポンプ阻害剤(PPI)の長期使用を避ける」ことです。PPIの長期投与と骨折リスクの関連を示唆する報告が複数あります。ステロイドには消化性潰瘍の副作用があるとされ、その予防にルーチンで胃薬を併用することの是非に関しては議論があるところですが、多発性骨髄腫の治療のように相当量を相当期間使用する際には併用することが多いように思います。特に潰瘍の既往がある場合や抗血小板薬との併用が必要な場合には重要です。このような際に開始されたPPIが、漫然と継続されるのは回避したいところです。

Arch Intern Med. 2010; 170: 765-771.http://bit.ly/13C6pkF, BMJ. 2012; 344: e372. http://bit.ly/14Nz4qf

 

しかし、多発性骨髄腫の患者さんにおけるステロイド骨粗鬆症と、その他のステロイド骨粗鬆症を同列に語ることはできません。それは容易に腎不全や高Ca血症を来しやすい病気だからです。現在の病状を良く把握しつつ補充する必要があります。

 

Caは多発性骨髄腫自体のアウトカムに影響しないのか?

 

「アメリカ人女性においてCaの摂取不足が多発性骨髄腫の危険因子となりえるかもしれない」という報告を見つけました。しかしこれは、ひょっとしたらひょっとするとCaには多発性骨髄腫の発症を予防する効果があるかもしれないということであり、多発性骨髄腫を発症した後のアウトカムを改善するかもという話ではありません。

Cancer Causes and Control. 2007; 18: 1065-1076.http://bit.ly/15V0fSf

 

一方、先ほどもご紹介したBlood 1984; 63: 639-648.http://bit.ly/13odODUには、カルムスチン、シクロフォスファミド、プレドニゾロン併用治療にCaを含む骨強化治療を併用した群では、併用しなかった群に比較して生存期間が有意に短縮したという結果が報告されています。

 

この試験ではCaだけでなく、フッ化物や男性ホルモンも併用されていますので、Caだけを悪者にすることはできません。それに、この化学療法レジメン自体は、現在は全くと言って良いほど使用されていません。しかし、ボルテゾミブ、レナリドミド、サリドマイドなどの新規薬剤とCaの併用療法の安全性や有効性は検証されているわけでもなく、思わぬ落とし穴があるかもしれないので、「たかがサプリくらい平気だろう」という軽い気持ちなら摂取するのは避けた方が無難かもしれません。

 

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個人的に至った結論としては、多発性骨髄腫の患者さんにおいてCaを補充すべきなのは、ステロイドBP製剤使用中に低Ca血症を生じた場合のみです。こんなに長々と考察した割には、辿り着いた結論が当たり前すぎて泣けます。

 

Caの補充を検討しても良いのは、病勢コントロールが良好でかつBP製剤を使用できない場合でしょうか。

 

Caの摂取を許容できるのは、病勢コントロールが良好でかつステロイド骨粗鬆症の予防に、食事療法だけではどうしても心配だと思われる場合でしょうか。

 

ただし、これらの際にはCa併用による弊害が起こり得る可能性も考慮し、慎重に腎機能やCaモニタリングをすることが必要です。

 

Caの摂取が言語道断なのは、病気が活動期にあり、腎不全や高カルシウム血症を伴っている場合です。

 

このように考えると、これでも私が考えていた以上に、多発性骨髄腫の患者さんがCaを摂取した方が良い、あるいは摂取しても良い局面は多いのかもしれません。血液内科医、いえ私は先入観を捨てて個々の症例、個々の病態においてCaの適応を検討し直すべきかもしれません。

 

ただし、多発性骨髄腫は病勢が揺らぎやすい病気でもあります。始めたCaが漫然と続けられるような状況は必ず回避しなくてはなりません。

 

そして、「多発性骨髄腫は骨が脆くなる病気だから、Caで骨の強化を図るのが基本」という短絡的な理由で摂取するのはどうかお止め下さい。

 

「ナントカ療法を模索するということ」

医者という仕事をしていると、主治医から「これ以上は有効な治療がありません」「治癒を目標とした治療戦略を立てるのは困難です」などの病状説明を受けた患者さんやご家族、あるいは近しい方が、代替医療や補完医療の「ナントカ療法」の可能性を模索するという構図をしばしば目にすることがある。

 

「ナントカ療法」を模索してしまう心情は理解の範囲外のものではない。キューブラー・ロス著「死ぬ瞬間」によれば、人が死に直面した際には「否認(自分が死ぬなんて嘘だろ)」→「怒り(なぜ死ぬのが自分でなければいけないのか)」→「取引(死なずにすむ方法はないものか)」→「抑うつ(何もする気が起きない)」→「受容」プロセスを辿るとされる。「ナントカ療法」を模索するのは文字通り「取引」のステップの一形態であり、何ら特別なことではない。

 

近しい人と死に際の時間を共有する経験などというものは、多くの人間にとっては極めて限定的なものだ。その限定的な乏しい経験の中で、苦悩や怒りを解消しようとあがいた結果として「そうだ!ナントカ療法ならナントカなるかもしれない」という「取引」に至ってしまうのは避けがたい心理なのかもしれない。

 

しかし、その経験不足故に行き着いてしまう「標準治療がダメなら代替医療しかないよね」という発想は、「女子へのプレゼントでアクセサリーがダメなら花束以外には思いつかないよね」という、極めて想像力に欠けた中二病的な発想とも言える。実際の中二病なら放置しておけば解決するのだろうが、終末期医療における中二病にはその時間的ゆとりはない。できれば回避したいし、陥ってしまってもなるべく短期間で抜け出したいところだ。

 

そしてそれは往々にして、「もっと親孝行をしておくべきだった」という良心の呵責や、「あらゆる可能性を追求しないことには自分的に納得できない」「可能性を一生懸命に探っている自分ってチョット眩しいかも」といった自己満足とも関連して見えることが多い。

 

はたして「標準医療ではこれ以上は…」と言われてしまった患者さんやご家族が優先的にとるべき行動とは、「ナントカ療法が効くらしい」といった類の情報を集めることなのであろうか?

 

一つの大前提として明言しておく。現時点において世の中にある全ての「ナントカ療法」は正真正銘の「ニセモノ」と言い切って良い。ちなみに、ここでいう「ニセモノ」とは「有効性が証明された実績がまるでない」ということだ。

 

「ニセモノと言われているものの中にもホンモノが紛れているかもしれないじゃないか」という意見がある。確かにその通りかもしれない。しかし、私は今のニセモノの中からホンモノが出てくる可能性は低く、あってもほんの一握りだろうと考えている。ニセモノがホンモノになることは患者さんや標準的な医療者にとっては福音以外の何物でもない。ではあるが、ニセモノの提供者にとっては、ニセモノがホンモノになることには何のメリットもない。彼らの食い扶持がなくなるだけだからだ。彼らがニセモノをホンモノにするための努力をすることはないと言っても過言ではない。

 

「ニセモノ志向」という概念がある。大まかに言えば「仮にニセモノだとしてもホンモノっぽければ気にしないよね」というものだ。いくらニセモノ志向であっても「ニセ療法」と名乗るわけにもいかないから、それならばちょっとでも信憑性を持たせようと「ナントカ療法」とそれらしい名前を称することになる。例えば「砂糖玉療法」ではニセモノ臭が尋常じゃないけど「ホメオパシー」ならホンモノっぽいよね、というのが好例だろう。ホンモノっぽいのは名称だけであり、その中身は大抵お粗末なものだ。

 

「患者がニセモノに惹かれるのはホンモノの信用性が低いからだろ、反省すべきはお前らだ」という意見もある。確かにそれもあるかもしれない。実際に信用に値しない医者が存在することは否定しない。しかし、ニセモノを信じてしまうような人にホンモノの信用性を見定めるだけの能力があるだろうか。「このホンモノは信用性が低い」と疑うのであれば、何もニセモノを探すのではなく、信用性の高いホンモノを探せばいい。

 

「ナントカ療法の真偽自体が問題ではなく、その療法が希望の光を灯し続けてくれるなら意義はあるのではないか」という意見もある。本当は治る見込みなんてないのに、治るかもしれないよという幻想を持たせることに意義があるというのだ。しかし私が思うに、それは「絶望した患者を見ているのがつらい。だからニセモノでもいいから希望を持たせたい」という家族側の自己防衛に過ぎないのだと思う。

 

これらはまさに死の「受容」への歩みを妨げる行為に他ならない。

 

「あんな医者の言うことなんて信頼できない。きっと他にいい方法があるはずだ」という『死なんか受容する必要はない』的な発言や、「諦めたらダメだ、気持ちで負けた時点で終わりだよ」「遣り残したことがあるんだろ」「子供がまだ小さいのだから頑張れよ」「親より先に死ぬなんて親不孝だよ」という『死を受容するなんてけしからん』的な発言は些か傲慢であるように思う。

 

場合によっては「『死ぬ瞬間』を贈るので読んでみてくださいね」や「もう頑張らなくていいんだよ」といった『死を受容するお手伝いをします』的な発言ですらおこがましい気がしてしまう。

 

「ナントカ療法」を模索してやめられないご家族は、患者さんが死の「受容」へ向かって歩を進めるのをナントカ阻止しようと悪戦苦闘している状態だ。このようなご家族にとっては「取引」から「抑うつ」「受容」をすっ飛ばしてダイレクトで「死」に至ることができれば本望、ということなのかもしれない。「最期まで望みを捨てずに頑張れたよね」と自分達に言い聞かせるために。

 

しかし私は思う。幻想的希望を保持することよりも、これまでの人生を評価してみせること、そして後顧の憂いを払拭してみせることのほうが、天秤にかける価値すらないほどに重要なのではないかと。

 

人が自分や家族のことを想って行動すべき時は、決して死に際ではないはずだ。私は、自分や家族が死に直面した際には、自分や家族が死を受容することの妨げになるような行動を控えたいと思っている。無駄な「取引」に時間を費やさないようにすること、それが医者である私の最大の強みだとも思う。

 

「ナントカ療法」を模索するのは罷りならん!とまでは主張することはできない。それもまた一連の流れの中では必要な作業なのかもしれない。しかし、終末期患者さんを喰い物にする悪質な統合医療ビジネスがあるのも事実だ。深入りし過ぎないことを只々祈るばかりだ。

「統合医療系クリニックに対して思うこと」

現代社会において、標準治療では如何ともし難い病態を有する方々や標準治療を好まない方々、場合によっては何の病気も有さない健常人を対象として、自由診療の枠組みで代替医療や補完医療を提供する統合医療系のクリニックが全国各地にごまんと存在する。

 

統合医療系クリニックは大抵の場合、高濃度ビタミンC、ニンニク注射、マイヤーズ・カクテルだけではなく、プラセンタ、キレーション、血液クレンジング、免疫細胞療法なども幅広く取り扱っている。

 

高濃度ビタミンC、ニンニク注射、マイヤーズ・カクテルなどは大別するとオーソモレキュラー療法に含まれる。簡単に言うと、適切な栄養素と糖質コントロールを用いて細胞の自然治癒力を導き出し病気を治そうという治療法のことだ。

 

一方、プラセンタ(胎盤由来の成長因子を投与しよう)、キレーション(不要な金属は体外排泄しよう)、血液クレンジング(血液をオゾン化しよう)、免疫細胞療法(自分の免疫担当細胞を活性化してがんを治そう)は明らかにオーソモレキュラーとは一線を画しており、同じ統合医療でも別枠と考えられる。

 

世の中の殆どの医者は表面的には「オーソモレキュラーもキレーションも血液クレンジングも免疫細胞療法も全部素晴らしい」と主張するか、「オーソモレキュラーもキレーションも血液クレンジングも免疫細胞療法も全部マユツバだ」と主張するかのどちらかのパターンに属するように見える。

 

個人的な印象ではあるが、「オーソモレキュラーは素晴らしいけど、免疫細胞療法はトンデモだよね」とか「免疫細胞療法は最高だけど、オーソモレキュラーは詐欺だよね」と各論的に主張する医者は極めて少数派だ。

 

私を含めた医者が「オーソモレキュラーもキレーションも血液クレンジングも免疫細胞療法も全部マユツバだ」と考える理由は明確だ。有効性がまるで実証されていない治療があたかも有効であるかのような文言で誘導し、それには全くそぐわないような高額な対価を得ている詐欺行為のように見えるからだ。

 

「オーソモレキュラーは素晴らしいけど、免疫細胞療法はトンデモだよね」とか「免疫細胞療法は最高だけど、オーソモレキュラーは詐欺だよね」も不本意でながらスタンスとしては一応ありだとは思う。自分が専門としたり研究したりしている治療の効果を信じるのは一種の信念や哲学でもあり理解はできる。

 

しかし、「オーソモレキュラーもキレーションも血液クレンジングも免疫細胞療法も全部素晴らしい」は全く理解できない。実証されていない事象を次から次へと無条件に本気で信じ込んでしまうのであれば、それはもはや信念や哲学を有する医者とは呼べず、単なるとんだ低能トンチキバカ野郎でしかない。

 

「あそこのご主人は〇〇神社でお祓いしてもらったら病気が治ったらしいのよ、ご利益あるらしいわよ」とか「あそこの長男は父親があんな罪を犯したから病気になっちゃってね、きっと心身ともに罪を償えば元気になるわよ」などの噂話を鵜呑みにしてお祓いや禊ぎを勧めているのと同レベルだ。

 

はたして医師国家試験をパスする程度の知能を持ち合わせる者の中に、そんな低能トンチキバカ野郎がごまんと存在するのだろうか?もちろん、稀ながらその全てや一部を信じてしまっている洗脳医者が存在するであろうことは想像に難くないが、ごまんと存在するとなると想像するのは少々難しいと思う。

 

私は、彼らの相当数は本気で統合医療の効果を信じている訳ではなく信じている風を演じているのだと解釈している。そうでないと、まるで統合医療開業マニュアルでも存在するかのように判で押したような統合医療系クリニックが全国に数多存在する理由を上手く説明できない。

 

では、なにゆえ実証もされず自由診療でしか実施できない統合医療の効果を信じている風を演じる必要があるのだろうか?理由は簡単だ。それがビジネスだからだ。彼らにとっては、統合医療を「自由診療で提供する」ことが命題なのであって、そのためには信じている風を貫く必要がある。

 

ありとあらゆる人間には必ず死が訪れる。死に直面した際に、その死を先延ばしにすることができる方法があるのであれば藁にも縋りたくなるのが心理であろう。その心理に付け込んで成り立っているビジネスの一つが統合医療ビジネスなのだと思う。

 

統合医療の医者にとっては、正直患者自身がどうなろうと知ったこっちゃなく、単に金のなる木や打出の小槌みたいに見えているのであろうなと想像する。そりゃ自然と扱いが懇切丁寧にもなるだろうなと思う。しかし、そこにはヒューマニズムやアカデミズムの欠片もなく、あるのはエゴイズムだけだ。

 

実しやかに都市伝説を面白おかしく語って仕事を維持する芸能人や、それらしいことを言って顧客を集める占い師と本質的には大差がない。検証困難なことを主張しておけば、いざ批判されても「否定されたという証拠もあるまい」という悪魔の証明理論で生き延びることができる。

 

医療の進歩は目覚ましく人間の寿命は著しく延びているのに、最期の段階での「不老不死を望んだ秦の始皇帝が徐福にカモられて大金をつぎ込んだくせに結果的には命を縮めた」という構図は、古代から現代にいたるに実はあまり変わっていないというのは皮肉だ。

 

因みに、これらの意見は一部のS田クリニックやSレンクリニックなどの「免疫細胞治療専門クリニック」に対して「彼らは免疫細胞療法だけを信じているから筋が通っていてエラいよね」と擁護しているものでは一切ない。

 

免疫細胞療法の中にも、樹状細胞療法やらペプチドワクチン療法やらナチュラルキラー細胞療法やらαβT細胞療法やらγδT細胞療法やら細胞障害性T細胞療法やら色々あって、それらにも全く同じことが言えるからだ。彼らも見事に節操がない。

 

一つ一つの代替・補完医療を吊し上げて批判しているのではない。各々は大いに研究され実用性があればどしどし実臨床に導入されればいいと思っている。批判の対象は常に統合医療で泡銭を稼ごうとしている医療者であることは忘れてはいけない。

「放射線とビタミンC」

点滴療法研究会(http://bit.ly/ZGsOx9)の柳澤厚生会長が、『放射線被ばくに関する公式声明(2011.03.29)』(http://bit.ly/17Tl3rQ)の中で、『ビタミンCは強力な抗酸化物質として放射線障害を防ぐ』ことが証明されたと明言しています。

 

これまで私は、10年以上にわたって造血幹細胞移植に従事し、造血器疾患の患者さんたちに全身放射線照射を含む移植前処置を行ってきましたが、残念ながらビタミンC放射線障害を軽減するという話を見たことも聞いたこともなく過ごしてきました。これは、偏に私の勉強不足に起因した不徳の致すところなのかもしれません。良い機会ですので、ビタミンCによる放射線障害の軽減作用に関して勉強してみたいと思います。

 

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最初に、柳澤医師が『被ばく対策.net』(http://bit.ly/17RoM9u)の中で、『ビタミンCは被ばくで発生した活性酸素を強力に抑えることで、細胞膜や遺伝子の損傷を防ぎます』とする根拠として紹介している3つの医学論文を見てみたいと思います(http://bit.ly/17pBPMp)。

 

一つ目が「J.Nucl Med 1993: 34; 637-640.http://bit.ly/14rSG5f」です。

彼は、その要旨をこのように説明しています。

 

『ビタミンCが内部被ばくの障害を防ぐ』

マウスに放射性ヨウ素131を注射し内部被ばくさせる。その後ビタミンCを注射や食事で与えると精子放射線に対する耐性が2.2倍強くなった。この時の注射量を人に換算すると60kgの人で3gに相当します。

 

実際にこの論文を読んでみて、私が要旨を書くとしたら以下の様になります。

「体重30gのマウスの精巣に放射性ヨウ素131131I)を直接投与(内部被曝モデル)すると、精子の生存率は用量依存性に低下する。しかし、事前に15μgのビタミンCを精巣内に注入しておく、あるいは高ビタミンC食を摂取させておくと、精巣内131Iのクリアランス自体に改善は見られないものの、精子放射線耐性が2.2倍高まった。ただし、体外から放射線をあてた(外部被曝モデル)場合はその効果は再現されなかった」

 

まず、これがあくまでも動物実験であることに留意しなくてはなりません。直ぐに人間に応用できるかのように喧伝するのは完全な飛躍です。そして、何よりも気になるのは、論文ではビタミンCを「被曝前」に投与したとあるのに、彼は「その(被曝)後」と表現しています。「被曝後でもまだ間に合うんだよ」という印象を与えるための恣意的な情報操作と疑われても仕方ないと思います。外部被曝モデルには効果がなかった、という結果が割愛されていることにも作為的なものを感じざるを得ません。そらから、「体重30gのマウスに対するビタミンC 15μg、が体重60kgの人間の3gに相当する」という文言にも「ホントに?」と首を傾げたくなります。そんな単純計算でいいのでしょうか?

 

まあまあこれらの気になるところ全てに目をつぶって、かつ百歩譲ったとしても、「内部被曝する前にビタミンCを精巣に直接注入しておけば、精子をいくらか温存できるかもしれない」と主張すべきであって、「どんなタイミングであろうとビタミンCを摂取さえすれば内部被曝による全般的な障害を防ぐ」という印象を抱かせる記述は明らかに不適切だと思います。

 

 

二つ目は「J Radiat Res 2010, 51, 145156.http://bit.ly/14rS7II」です。

彼は、その要旨をこのように説明しています。

 

『ビタミンCが急性放射線障害から守る』

体重あたり150mgのビタミンC3日間与えたマウスと通常食のマウスに、14Gy放射線を照射。通常食では骨髄移植をしても全マウスが死亡したが、ビタミンCを与えたマウスは42%が生存した。研究者らはビタミンC活性酸素の生成を抑えることによりDNAの障害を防ぎ急性放射線被ばくによる障害を防げたと考察しています。

 

実際にこの論文を読んでみて、私が要旨を書くとしたら以下の様になります。

C57BL/6マウスは、6Gyまでの全身放射線照射(外部被曝モデル)では骨髄移植で造血機能をレスキューしなくても死に至らないが、8Gy以上では骨髄移植を行わないと死んでしまう。しかし照射量が14Gyに達すると、たとえ骨髄移植をしてもその消化管毒性により生存できなくなる。一方、照射前に150mg/kgのビタミンC3日間経口投与しておくと、消化管毒性が軽減し、42%が生存できるようになる。但し、照射後に同量のビタミンCを投与しても同様の効果は得られなかった。また、事前のパイロット試験として実施した1500mg/kgの高用量では、逆にその副作用により全例死亡した」

 

まず、これがまたもや動物実験であることに留意しなくてはなりません。そして、照射後のビタミンC投与や、より高用量のビタミンCでは上手くいかなかったことなど、ネガティブな情報は示さない、という同様の手法を繰り返しています。

 

それにしても、これこそ典型的な「語るに落ちる」モデルなのだと思います。なぜなら、この論文では「6Gyまでの外部被曝では死に至らない」「ビタミンCの『外部被曝による消化管毒性を軽減する』恩恵を受けられるのは、14Gy外部被曝を受けたマウス」と言っているのですから。今回の原発事故で6Gyを超える外部被曝をした方は存在しないので、この文献を論拠とするならば「幸いビタミンCを投与すべき人はいませんでした」という結論になるわけです。

 

少々脇道にそれますが、この文献は外部被曝のみならず、「骨髄移植を受ける患者さんにもビタミンCが有効です」という印象を与えているので、「骨髄移植(造血幹細胞移植)とビタミンC」でpubmed検索もしてみました。すると、このような文献が引っ掛かってきます。

Am J Clin Nutr. 2000; 72: 181-189.http://bit.ly/17rlDdo

24(全身放射線照射を受けたのは4)の同種移植患者さんを対象とした研究によると、強化した点滴栄養をしなくても、通常の点滴栄養をしていれば血液中のビタミンC濃度は低下しない。

Bone Marrow Transplant. 1995; 15: 757-762.http://1.usa.gov/ZJNNNd

ブスルファン+シクロホスファミド+エトポシドの前処置を受けた7人の移植患者さんを対象とした研究によると、血液中のビタミンC濃度は低下しない。

 

移植をしたからといって、そうそうビタミンC欠乏に陥るわけではなさそうです。

 

さらに、こんな文献も見つかりました。

J Am Diet Assoc. 2003; 103: 982-990.http://bit.ly/17TVbfy

1182人の移植患者さんを対象とした観察コホート研究によると、急性白血病患者に対する移植前に500 mg/日以上のビタミンCを摂取すると、非再発死亡(相対危険度 2.25; 95%CI 1.33-3.83; p=0.01)、ならびに全死亡(相対危険度 1.63; 95%CI 1.09-2.44; p=0.01)が増えるかもしれない。

 

ビタミンCによって、知らず知らずのうちに移植成績を貶めている、なんて事態が起きているかもしれません。

 

さらにさらに、このような文献もみつかりました。

Nephrol Dial Transplant. 2005; 20: 1970-1975.http://bit.ly/17TTIpG

10人の腎臓移植患者さんを対象とした研究によると、ビタミンC(500mg/), ビタミンE(400IU/), βカロテン(6mg/)の内服は、腎臓移植後のシクロスポリンのトラフ値を平均24%低下させる。

Nephrol Dial Transplant. 2006; 21: 231-232.http://bit.ly/17UlK4q

56人の腎臓移植患者さんを対象とした研究によると、ビタミンC(1000mg/), ビタミンE(300mg/)の内服は、腎臓移植後のシクロスポリンのトラフ値を低下させる(-14±25 vs. 10±30 mg/L, p=0.003)

J Heart Lung Transplant. 2005; 24: 990-994.http://bit.ly/17TU9Ai

29人の心臓移植患者さんを対象とした研究によると、ビタミンC(1000mg/), ビタミンE(800IU/)の内服は、心臓移植後のシクロスポリンのトラフ値を平均30%低下させる。

 

シクロスポリンは固形臓器移植後の拒絶反応、骨髄移植後の移植片対宿主病を予防するための鍵となる重要な薬です。ビタミンCによってその血中濃度が低下し、拒絶反応や移植片対宿主病が誘発される、なんて事態も起きているかもしれません。

 

少なくとも現時点で言えるのは、移植において「ビタミンCの効果は不明瞭かもしれないけど、害があるわけじゃないからとにかく摂取しておこう」という盲信的なビタミンC摂取は避けておいたほうが無難だ、ということだけです。害がないとは言い切れないのです。

 

 

三つ目は「Mutat Res. 1994; 316: 91-102.http://bit.ly/13czzHD」です。

彼は、その要旨をこのように説明しています。

 

『ビタミンC放射線に対して人間の白血球を強化する』

朝食時にビタミンCを体重1kgあたり35mg(体重60kgの人で2.1gのビタミンC)を飲んだ時とそうでない時に血液を採取。その白血球に2Gy放射線を照射して遺伝子の傷の数を比較した。ビタミンCを飲むと傷の数が減少し、飲んで4時間後の効果が最大であった。

 

実際にこの論文を読んでみて、私が要旨を書くとしたら以下の様になります。

「朝食時にビタミンCを体重1kgあたり35mg摂取した後に、6名の健常人から採取した全血有核細胞(白血球)に2Gy放射線を照射してDNA損傷解析(comet assay; Exp Cell Res. 1988; 175: 184-191.)を実施すると、摂取していなかった場合よりも遺伝子損傷の程度が減少していた。同様の保護効果は朝食のみ、またビタミンCのみの場合にも観察され、朝食とビタミンCの相加的効果と考えられた。単核球(リンパ球)分画においては、この保護効果はDNA損傷解析では再現されたが、生存解析(microtiter assay; Int J Radiat Biol. 1988; 54: 929-943.)と染色体異常誘発能解析(micronucleus formation analysis; Mutation Res. 1986; 161: 193-198.)では再現されなかった」

 

繰り返し指摘するのにもやや飽きましたが、ネガティブな情報は提示しないポリシーには嫌気がさします。自身にとって都合のよい部分だけを切り取って論文紹介をする意図の裏には「どうせ素人には分かりっこない」という侮りがあるのかもしれません。

 

 

次に、彼のグループが実施し、彼自身が発表し、そして『福島原発作業員に対して、高濃度ビタミンC点滴と抗酸化サプリメントを通じた対策によって、癌リスクを低減させることが明らかとなりました』と主張する研究(第13回国際統合医学会(現国際個別化医療学会)学術集会, 東京, 2011.10.22)(http://bit.ly/17Rp3cx)を査読してみましょう。

 

表題福島原発作業者に対する高濃度ビタミンC点滴と抗酸化サプリメントによる介入

対象20113月以降に56週間、福島原発の敷地内で汚染水処理、コンクリート吹き付け、汚染測定、瓦礫撤去作業に従事した東京電力協力会社の孫請け建設作業員男性17(3259)

方法4名に関しては派遣前ならびに派遣完了後、13名に関しては派遣完了後に血液検体を採取し、①血球計算と生化学②血漿free DNA47癌関連遺伝子④癌リスク値、を算出した。

介入

①高濃度ビタミンC 25g+ビタミンB1/B2/B3/B5/B6/B12点滴

②ビタミンC 1g+αリポ酸+レニウム+ビタミンE+マルチミネラル・ビタミン服用

4名に関しては派遣前に①、派遣期間中に②を実施した。13名に関しては派遣完了後に①+②を実施した。

結果:派遣前から介入した4名に関しては、派遣完了後時点で4名中1名が血中free DNAが軽度増加、癌リスク値は全例で正常値であった。派遣完了後に介入した13名に関しては、派遣完了後時点で13名中2名がfree DNAが増加、13名中3名で癌リスク値が増加したが、介入後はfree DNAが全例で正常化、癌リスク値は3名中2名で正常化した。

結論原発作業者の被ばく予防対策としてビタミンC点滴や抗酸化栄養素の摂取を直ちに実施すべきである。

 

疑問1free DNAと癌リスク値とは?

GeneScience社(http://bit.ly/17WvF9t)のホームページにその記載があります。遺伝子損傷の程度や癌発症の予見に関して、これらのマーカーがどれほど有用であるかは正直に申し上げて知りません。しかし、日常臨床としてこれらが実用されている事実は一切ありません。

 

疑問2:派遣完了後時点でのfree DNA増加例は、派遣前介入群4名中1名、派遣完了後介入群13名中2名だが、これは派遣前の介入がfree DNAを低下させたといえるのか?

→フィッシャーの正確確率検定を行うと、p=0.5794、オッズ比検定を行うと、オッズ比1.8395%信頼区間 0.12-27.80)であり、統計学的な有意差を認めません。「派遣前からの介入が、free DNAを低下させた」と言えないのは明らかです。

 

疑問3:派遣完了後時点での癌リスク値増加例は、派遣前介入群4名中0名、派遣完了後介入群13名中3名だが、これは派遣前の介入が癌リスク値を低下させたといえるのか?

→フィッシャーの正確確率検定を行うと、p=0.4206、オッズ比検定を行うと、オッズ比0.3395%信頼区間 0.01-7.78)であり、統計学的な有意差を認めません。つまり「派遣前からの介入が、癌リスク値を低下させた」とは言えません。

 

疑問4:派遣完了後介入群の中でfree DNA高値であった2名は介入後正常化、癌リスク値高値であった3名中2名で介入後正常化とあるが、これは介入による効果なのか?

→自然経過でfree DNAや癌リスク値が改善した可能性を否定するためには、介入群とプラセボ群でのランダム化比較試験が必要です。よって、数値の改善が介入の結果であったと結論することはできません。

 

この研究は、処置前後の比較などの前後比較,対照群を伴わない研究、あるいはケースシリーズ扱いで、エビデンスレベルとしては45程度の研究だと思われます。ですから彼は、エビデンスレベル45のパイロット介入試験を行って、「ビタミンCfree DNAや癌リスク値を改善することは統計学的に証明できない」と発表したことになります。それなのに蓋を開けてみれば『被ばく予防対策としてビタミンC点滴や抗酸化栄養素の摂取を直ちに実施していくべきである』と真逆の強弁を張っています。この結論は主張でもなんでもなく、ただの詭弁なので全くもって支持できません。

 

どうしたら、このクォリティーの研究で、ここまで居丈高にお門違いに胸を張れるのか理解できません。ちなみにこの研究は、研究プロトコールの作成や倫理委員会の承認、そしてインフォームドコンセントの取得などの正当な手筈を踏んでいるのでしょうか。甚だ疑問です。

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「ビタミンCに害がないなら別に良いじゃないか!」という声が聞こえてきそうです。それであるならば、点滴療法研究会の柳澤医師こそが福島に出向いて、完全ボランティアとしてビタミンC点滴と抗酸化サプリメント配布をして回れば済むことです。

 

内部被曝にしろ外部被爆にしろ、高額な費用をつぎ込んでまで高濃度ビタミンC点滴を受けたり抗酸化サプリメントを摂取したりするだけのメリットは皆無ですし、そもそも東京大学の早野先生のグループの調査により福島の住民の内部被曝が予想よりも低かったことが明らかにされており(http://bit.ly/14nLUx0)、かりにビタミンCに効果があったとしても、放射線障害を軽減する目的でビタミンCを受けるべき人はこの世には存在しないといえるのです。

 

これは決して福島の原発作業者や住民に向けての心あるメッセージではありません。「福島以外に住み、低線量被曝に過度の不安を持つ人たち」に向けての偽善という覆面を被ったエゴメッセージなのだと思います。「被曝が心配なら我々のところにビタミンC点滴を受けに来て下さい。我々のところに抗酸化サプリメントをお買い求めに来て下さい」という。

 

消費者を侮り、弄ぶにも程があります。私たちは、このような腐敗しきったクソみたいな医療者に踊らされてはならないと思います。

「血液型と疾患」のはなし

血液型と人間性や性格を関連づけた話題は非常に多く、とくにまだ浅い人間関係しか構築できていない局面などにおいては、話の取っ掛かりにはもってこいだし、実を言うと自分もそんなに嫌いな方ではない。一種のコミュニケーションツールとして楽しむ分には何ら問題ないのであろうが、医者、なかでも血液内科医ともあろう者が血液型に関して軽々しく公に発言をするのは控えるべきであろう。

 

なぜなら、血液型には社会問題が付随してくるからだ。「血液型性格判断」や「血液型人間学」などのニセ科学をもとにして、金儲けをしている輩がいるだけなら百歩譲って許せたとしても、それが人間の「差別」の原因になっているとすれば看過できない。就職の人選や配属だったり、入学の選別やクラス分けやいじめだったり、その実例は枚挙に暇がない。

 

ひょっとすると、大規模な調査を行えば、血液型と性格の微妙な相関が科学的に立証される可能性はある。もし、もしかりにその相関が示されたとしても、例えば「A型の人は非A型の人よりも1.05倍几帳面な傾向がある」程度の弱い相関にとどまるであろうし、それをもってして「几帳面な人は大抵A型」という強い相関を示せるようには断じてならないであろう。

 

「科学的な根拠がないというのは、必ずしも科学的に否定されたということではないよね」とか「科学的な根拠がなくても、みんなが『血液型と性格には何らかの関係がありそうだ』って感じてるんだからそれでよくね」などという貧相なエクスキューズでドヤ顔されてもこっちは困惑するだけで、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎医師にしても、能見式血液型診断を継承する血液型人間科学研究センターにしても、もう少し恥じらいを持ってもいいと言うか、もう少し弾劾されてもいいように思うのだが。

 

しかし一方で、最近になって血液型と疾患の相関にはやや興味をもっていることは告白しておかなくてはならない。

 

きっかけは、「ルイス式血液型Le(a+b-)ABO血液型B型ではノロウィルスに感染しにくい」ことや、「ルイス式血液型Le(a-b-)では腫瘍マーカーの一つであるCA19-9合成能がない」ことなどの明確な医学的事実ではあったのだが、さらなる興味を持ったのは、2009年にゲノムワイド関連解析の手法を用いて「血液型ABまたはAB型では、O型に比べ膵臓癌リスクが高い」Nat Genet. 2009; 41: 986-990. http://bit.ly/116Fwpe, Cancer Res. 2010; 70: 1015-1023. http://bit.ly/117qyPQとする報告を立て続けに目にする機会があったからだ。

 

2000年のNatureにおける遺伝形質と疾患に関するレビューの中には、「再現性を持って血液型と相関が見いだせる疾患はない」という主旨の記述がある。

Nature 2000; 405: 847-856. http://bit.ly/117hVEN

 

しかし、メンデル型の遺伝形式をとらない、多因子形質の遺伝的原因を解明するゲノムワイド関連解析法(genome-wide association study; GWAS)の登場により、前述したような遺伝形質と疾患の関連性が示唆されるようなってきている。

 

1960年代より血液型と血栓性疾患や出血性疾患との関連性を示唆する報告は多い。その中でも最近のものをいくつか挙げてみたい。

 

O型における静脈血栓塞栓のハザード比は対O型で1.495%CI 1.3-1.5)。

CMAJ 2013; 185: E229-E237. http://1.usa.gov/10OERpH

 

O型における冠動脈疾患の相対危険度は対O型で1.1195% CI 1.05–1.18; P=0.001)。

Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012; 32: 2314-2320. http://bit.ly/XpoMJA

 

出血性合併症におけるO型のオッズ比は1.33 (95%CI 1.25-1.42; p<0.001)

Semin Thromb Hemost 2013; 39: 72-82. http://bit.ly/10Pkn00

 

O型では非O型に比してvWF(フォン・ウィルブランド因子)活性が25%程度低い。

Transfusion. 2006; 46: 1836-1844. http://bit.ly/117rAeK

 

O型では非O型に比してvWF多重体がvWF分解酵素(ADAMTS13)による分解を受けやすい。

J Thromb Haemost. 2003 Jan;1(1):33-40. http://1.usa.gov/117sjwf

 

この血液型と血栓性疾患や出血性疾患についても、ぜひともゲノムワイド関連解析お願いしたいところだ。誰に言えば良いのかも分からないので、とりあえずここに書いておく。

 

個人的には、O型がTTP(血栓性血小板減少性紫斑病)やHUS(溶血性尿毒症症候群)を含んだTMA(血栓性微小血管障害症)になりにくいという話は見たことも聞いたこともなく、自験例さえ豊富ならば自ら関連性を調べてみたい勢いだが、自験例など数えるほどで…(汗)。こちらもどなたかにお願いしたいところだ。

 

「高濃度ビタミンC療法<費用編>」

おまけで、「高濃度ビタミンC療法<費用編>」をお送りします。

 

高濃度ビタミンCは標準的には、「週に2回の点滴で6ヶ月間継続、その後の経過が良ければ週1回を6ヶ月、さらに2週に1回を1年間、その後は月に1回」といった感じで行われているようです。かりに3年間続けると、約100回程度点滴をする計算です。相場は115g程度で、クリニックにもよりますが10,00030,000です。合計の金額は100300万円といったところでしょうか。副作用がなければ25g50gと増量するみたいなので、費用も倍増、倍々増になることが予想されます。

 

ちなみに、第1相試験で全奏効率が0%だった論文(Ann Oncol. 2008; 19: 1969-1974. (http://bit.ly/Zw5ZcD))で採用されたビタミンCの最大用量は体重1kgあたり1.5g50kgの人なら75g60kgの人なら90gに相当します)です。

 

一方、保険診療でビタミンCを使用する場合にはいくつか選択肢があるのですが、例えば「ビタミンC注2g扶桑薬品工業, 82円」を使用すれば、15g7.5筒に相当するので、1615です。また後発品の「ビタミンC10%PB 2g(日新製薬), 56円」なら、1420です。ちなみに保険診療で認められているのは2gまでなので、実際に保険診療で高濃度ビタミンC療法を行うのは不可能なのですが。

 

とにかく高濃度ビタミンC療法は、それ専用のたいした設備投資も不要で、かつとてつもなく「オイシイ」のです。

 

どんなに逆立ちしても自分たちの営利が主目的であって、患者さんたちの希望や患者さんへの慈愛なんてのは後付けのクソみたいな建前なんだと思います。

 

皆さんはどう思われますでしょうか?