yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

「高濃度ビタミンC療法<歴史編>」

私は血液内科医です。白血病や悪性リンパ腫や多発性骨髄腫といった造血器腫瘍の患者さんが仕事のお相手で、抗がん剤による化学療法が仕事の大部分を占めています。造血器腫瘍は化学療法に対する反応が良いことが多く、化学療法だけで治ってしまうことあれば、たとえ治癒までいかなくとも健康な人と何ら変わらないレベルでの生活を一定期間確保できることも少なくありません。しかし、その様に上手いこと運ぶ事例ばかりではありませんで、最初から化学療法の効果が乏しかったり、最初は効果があっても徐々に効かなくなったりして、最終的に制御不能に陥りお亡くなりになられることも多いのが現状です。

 

そうした経過の中で、代替医療が話題にのぼることがあります。私には、個人的な苦い経験もあるせいか、どうも代替医療と聞くと眉をひそめてしまう条件反射があるようです。一方で、治る見込みのない方が一縷の望みを抱いて代替医療を求める心情は十分に理解ができます。副作用や経済的な影響が小さいと予測した場合には、目をつぶることもあります。しかし、あまりに高額だったり、安全性に疑問を持たざるを得なかったりするものに関しては「正直に申し上げてお勧めできません」と意見させていただいています。これをパターナリズムと批判されることも少なくないのですが。

 

そんな代替医療の中の一つに「高濃度ビタミンC療法」というものがあります。「ビタミンCは正常細胞には優しく、がん細胞だけをやっつける理想的な抗がん剤」的な心地よい響きの言説を耳にします。点滴療法研究会(http://bit.ly/ZGsOx9)や高濃度ビタミンC点滴療法学会(http://bit.ly/YLBSnF)なるグループが中心になって宣伝しているようです。探せば自費診療でビタミンCを投与してくれるクリニックは全国に数多存在し、みなさんのご自宅の近くにもあるかもしれません。一概には信じられないのですが、ここは「バカバカしい!そんなのトンデモ医療だろ」と頭ごなしに否定するのをぐっとこらえて、疑問を解消するために少し勉強してみることにしました。

 

本当は「少し」じゃなくて「もの凄く」と言いたいところなのですが、「本業の方はどうした!」とお叱りを受けそうなので、あくまでもここは慎ましやかな表現にしておきます。

 

調べれば調べるほど、高濃度ビタミンCにまつわる知られざる事実が出てきて、驚きの連続だったのですが、1回のブログ記事にするにはあまりに情報が膨大なので、何回かに分けて掲載することにします。

 

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1回では「高濃度ビタミンC療法<歴史編>」をお送りします。ちなみに、医学的には「高濃度」ではなく「高用量」なので、今後は高用量ビタミンCと呼ぶこととします。

 

古くから、ビタミンCについての効果・効能に関しては様々な研究がありますが、何といってもその抗がん作用という点で俄然注目を浴びるようになったのは、「ビタミンCの抗がん作用」を発表したのがライナス・ポーリングwikipedia, http://bit.ly/YT1Rn9)だったからでしょう。知る人ぞ知る数少ないノーベル化学賞ノーベル平和賞のダブル受賞者です。ぶっちゃけ私は知りませんでしたけどね。「おぉぉ~ノーベル賞の受賞者が言うことなら無条件で信じていいよね」という声があちこち聞こえてきそうですし、実際に私の心にも同じ感情がむくむくと湧いてきました。いやいや、ノーベル賞受賞者が人格者とは限りません。リュック・モンタニエみたいにトンデモに変身する人もいらっしゃいます。もちろん逆にトンデモだった人が、ノーベル賞受賞者に変身することもあるんですが。

 

さあ、気を取り直してさらに歴史をたどりましょう。

 

彼は、当時in vitro(試験管、つまりは生体外での実験)の研究でビタミンCの抗がん作用を発表していた(Lancet 1972; 1: 542)キャメロン医師と協力して、1976年と1978年に「終末期癌患者に高用量ビタミンCを投与すると生存期間が著明に延長する」という報告を立て続けに発表しました。ちなみに、この際のビタミンC110g10日間静脈投与し、その後は110gを内服するというものでした。

 PNAS 1976; 73: 3685-3689. (http://1.usa.gov/YT2vRM), PNAS 1978; 75: 4538-4542. (http://1.usa.gov/YT2yg8)

 

実は、全く影響力はなかったものの、同様の報告は何と我が国日本からもありました。

 Int J Vitam Nutr Res Suppl. 1982; 23: 103-113. (http://1.usa.gov/ZXBsXP)

 

in vitroのデータではありますが、世界的な権威的科学誌であるNatureにもこれを支持する研究報告が出ました。

 Nature 1980; 284: 629-631. (http://1.usa.gov/YTTIVC)

 

全体的に高用量ビタミンC療法に追い風の時代だったようです。しかし残念なことに、これらは全て「ランダム化比較試験」といって、ビタミンCを投与される患者さんとプラセボを投与される患者さんが、無作為的に割り付けられる手法に従っておらず、臨床試験としてはやや信頼性に欠けるデータだったわけです。

  

一方、その後メイヨークリニックの医師らが1979年と1985年に進行期癌に対する「高用量ビタミンC vs. プラセボ」の2つのランダム化比較試験を実施し、「生存期間を全くもって延長しない」とその抗がん作用を完全否定したのです。その際のビタミンC10g/日を連日経口内服するというものでした。

 N Engl J Med. 1979; 301: 687-690. (http://bit.ly/ZXD7N2), N Engl J Med. 1985; 312: 137-141. (http://bit.ly/XbzKo1)

  

臨床試験の質としては後者の方が高く、しかもそれがN Engl J Medという超一流ジャーナルだったもんですから、「ビタミンCに抗がん作用なんかあるわけないよね~」とレッテルづけされ放置されたのです。暗黒時代の到来です。

 

ポーリング&キャメロンは起死回生を図って、1991年にも進行期癌における高用量ビタミンC静脈投与の有効性を再び報告します。しかしこれが、性懲りもなく非ランダム化比較試験だったのもんですから見向きもされず、三流雑誌(ゴメンナサイ(^_^;))にしか取り上げてもらえません。逆に、同一グループだけからの再現性のないデータには余計に胡散臭さが漂ってしまいます。

 Med Hypotheses. 1991; 36: 185-189. (http://bit.ly/ZXvN3X)

 

しかし、ビタミンCは不死鳥のように蘇ります。同じ量のビタミンCでも、経口内服と静脈投与では血液中の濃度の最高到達地点に明らかな差があること(Ann Intern Med. 2004; 140: 533-537. (http://bit.ly/YTECzn))に続き、米国立がん研究所が高用量ビタミンCを静脈投与すると、in vitroおよびin vivo(マウス)共に正常細胞にはダメージを与えずに腫瘍細胞だけを選択的に殺傷できること(PNAS 2005; 102: 13604–13609. (http://1.usa.gov/YT92f2), PNAS 2008; 105: 11105-11109. (http://1.usa.gov/YTPm0t))を発表し、再びスポットライトを浴びることになったのです。「それ見たことか!経口内服じゃダメなんだ!静脈投与じゃなきゃダメなんだ!」という静脈投与至上主義がここに誕生したのです。

 

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では続きは第2「高用量ビタミンC療法野 <臨床試験編>」へ。