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yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

「某有名自由診療クリニックが紹介する『抗がん剤治療の効果を高める補完療法』を検証する⑤ 〜メラトニン〜」

 

某有名自由診療クリニックが奨める『抗がん剤治療の効果を高める補完療法』を検証するシリーズ。第1回はメトホルミン、第2回はアセチル-L-カルニチン、第3回はビタミンD、第4回はドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸を検証しました。結論は何れも「自分の患者に奨めることはないし、自分で服用することもない」でした。

 

第5回はメラトニンです。

 

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最初に、そのクリニックがメラトニンを紹介している文章を引用しておきます。

 

免疫力と抗酸化力を高めます。放射線治療抗がん剤治療の副作用を緩和し、抗腫瘍効果を高めることが臨床試験で確かめられています。進行がんに対して、がん性悪液質を改善して延命効果を発揮します。

がん治療には1日20~40mg、再発予防には1日10mgを摂取します。

10mg/60錠:5,000円(消費税込み) / 20mg/60錠:9,000円(消費税込み)米国製のサプリメントです。

【作用機序と有効性の根拠】

メラトニンはヒトの体内時計を調節するホルモンとして知られています。暗くなると体内のメラトニンの量が増えて眠りを誘います。快適な睡眠をもたらし、時差ぼけを解消するサプリメントとして評判になり、さらに免疫力や抗酸化力を高める効果や抗老化作用も報告されています。

睡眠障害や時差ぼけには1mg程度のメラトニンサプリメントとして使用されますが、一日に20~40mgくらいの多い量を使用するとがんにも効果があることが数多くの研究で明らかになっています。

メラトニンは免疫力や抗酸化力を高めてがんに対する抵抗力を増強するだけでなく、がん細胞自体に働きかけて増殖を抑える効果も報告されています。

メラトニンは、前立腺がんや乳がんや肺がんなど多くのがんに有効という臨床試験の結果も報告されています。手術後の傷の治りを促進し、抗癌剤放射線治療の効果を高め、副作用を軽減する効果も報告されています。

ガンマ・インターフェロンなどの多くのサイトカインの産生を調節することによってナチュラルキラー細胞やリンパ球などの免疫細胞を活性化し、がん細胞に対する免疫力を高める効果があります。

メラトニンは培養細胞を使った研究で、乳がん細胞のp53蛋白(がん抑制遺伝子の一種)の発現量を増やし、がん細胞の増殖を抑制することが報告されています。

○シスプラチン治療を受けている非小細胞肺癌の63例が、1日10mgのメラトニンを摂取するか、保存的治療のみかの群にランダムに分けられて効果の検討が行われています。 保存的治療のみの患者の平均生存期間が3ヶ月であったのに対して、メラトニンを服用した患者の平均生存期間は6ヶ月であり、1年以上生存した患者は、保存的治療のみが32例中2例であったのに対して、メラトニン服用者では32例中8例でした。

○ホルモン療法(タモキシフェン)を受けている進行した乳がん患者において、1日20mgのメラトニンの服用に延命効果があることが報告されています。ホルモン依存性の乳がんの治療のあと、再発予防の目的で抗エストロゲン剤のタモキシフェンなどが投与されますが、1日20mgのメラトニンはその再発予防効果を高める効果が期待できます。

乳がんの発生や再発に、体内のメラトニンの量が関連していることが報告されています。(詳しくはこちらへ)

その他、メラトニンの抗がん作用は脳腫瘍における放射線治療や、肺がんや大腸がんなど、数多くの臨床試験で報告されています。

【服用上の注意点】

抗がん剤放射線治療やホルモン療法と併用する場合は、1日10~20mg程度を服用します。進行がんの治療では1日40mg程度の使用も報告されています。

メラトニンを服用すると眠くなるため、日中の服用は避けます。

免疫細胞を活性化するため免疫系統の悪性腫瘍(白血病やリンパ腫)では服用しない方が良いと言われています。自己免疫疾患の人はメラトニンの摂取を控えるのが賢明です。ワーファリン服用中の方はメラトニンは服用できません。ワーファリンの効き目に影響する可能性が報告されています。

妊婦や授乳中の女性や子供はメラトニンの使用できません。

【費用】

メラトニン10mg、60カプセル入り1個が5,000円(税込み)、メラトニン20mg、60カプセル入り1個が9,000円(税込み)です。いずれも米国製で、化学合成したメラトニンです。

抗がん剤治療との併用では1日20mgを服用しますので、1ヶ月分が5,000円になります。

 

ポジティブ風味の情報を並べ立てて期待感を焚きつけるその匠の技は、読む者に年季を感じさせます。メラトニンは主に松果体から産生されるホルモンで、概日リズムを調整していると考えられています。メラトニン受容体作動薬としてロゼレム®がありますが、メラトニン自体の医薬品は日本にはありません。

 

もし本当にメラトニン抗がん剤治療の効果を安全に高めることができるのであれば、きっと日本全国のがん診療医がこぞってメラトニン個人輸入し、税関職員が白目をむくことになるはずです。

 

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固形がんに対する標準的な化学療法、あるいは放射線化学療法にメラトニンを併用する群と併用しない群に振り分けて、その併用効果を検証したランダム化比較試験のメタ解析があります(Cancer Chemother Pharmacol. 2012; 69: 1213-1220.)。

 

8つのランダム化比較試験、761人が解析対象となっています。全奏功率はメラトニン群32.6%、非メラトニン群16.5%(RR=1.95(95% CI; 1.49-2.54), P<0.00001, I2=0%)、1年生存率はメラトニン群52.2%、非メラトニン群28.4%(RR=1.90(95% CI; 1.28-2.83), P=0.001, I2=61.9%)、血小板減少はメラトニン群2.2%、非メラトニン群19.7%(RR=0.13(95% CI; 0.06-0.28), P<0.00001, I2=0%)、神経毒性はメラトニン群2.5%、非メラトニン群15.2%(RR=0.19(95% CI; 0.09-0.40, I2=0%), P<0.0001)、倦怠感はメラトニン群17.2%、非メラトニン群49.1%(RR=0.37(95% CI; 0.28-0.48), P<0.00001, I2=0%)となり、放射線化学療法の毒性を軽減するのみならず、奏効率や生存率をも改善するとの結果でした。

 

「じぇじぇじぇ!」心のあまちゃんが腰を抜かしました。心のジャパネットが「なんとメラトニンを併用するだけで、全奏効率と1年生存率が約2倍!それだけじゃありませんよ、主だった有害事象がなんと70-90%オフ!」と連呼しています。家電量販店なみの有害事象ディスカウントと有効性ポイントバックです。魔法の薬と呼んでも差し支えないレベルに思えます。

 

「ちょっ待てよ」何やら心のキムタクが言っています。「ちょっ待てよ。こんなに良いのは逆におかしいだろ。いいから、もう一回よく見てみろって」。そこまで言うならもう一回見てみましょう。

 

「むむむっ!」今度は心のジェイ・カビラが怪訝な顔をしています。この解析に含まれる臨床試験8報のうち7報が、イタリアの同一施設からの非盲検化試験なのです。I2(I二乗値)が良好なのも頷けます。文献6, 7, 10, 12, 13, 14のファーストオーサーはLissoni氏、文献15のCerea氏も同一施設の方でラストオーサーはやはりLissoni氏です。文献11のYan氏は他施設の方ですが、この報告では奏功率にも生存率にも有意差を認めておらず、有害事象の比較検討はありません。

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高濃度ビタミンC療法のライナス・ポーリングの時と同じように、単一施設からのみの再現性のない結果を額面通りに受け取るわけにはいかないのです。「ボーノ、リッソーニ、くぅ~、彼を信用しちゃっていいんですか?いいんです!」とはなりません。

 

このメタ解析以降にも、他の施設から二重盲検ランダム化比較試験の報告が幾つかあるので見てみます。

 

73人の進行期肺がん、あるいは消化器がん患者をメラトン群とプラセボ群に振り分けて、食欲、体重、QOLなどに有意差が出るか否かを検証した二重盲検ランダム化比較試験があります(J Clin Oncol. 2013; 31: 1271-1276.)。

 

中間解析では、各々「メラトニン群 vs. プラセボ群」として、食欲(-0.83(-1.9〜0.2) vs. 1.19(-2.1〜-0.3), P=0.80)、体重(-0.8(-2.3〜0.15) vs. -1.0(-2.6〜2), P=0.17)、倦怠感(-1(-13〜-12) vs. 3.2(-7〜-12), P=0.65)、抑うつ(0(-1〜0) vs. 0(-1〜0), P=0.28)、疼痛(0.09(-0.73〜0.91) vs. 0.38(-0.39〜1.15), P=0.30)、喜び(-0.39(1.9〜1.1) vs. -0.96(-2.2〜0.3), P=0.72)、睡眠(-1(-3〜-1) vs. -0.5(-2〜-1), P=0.62)、FAACT(0(-3〜-2) vs. -0.5(-2〜-1), P=0.95)、生存、CRPの全項目に群間差が見られず、早期中止勧告となってしまいました。

 

151人の進行期非小細胞肺がん患者を、メラトニン(10mg/日, 20mg/日)を摂取する群とプラセボを摂取する群に振り分けて、健康に関連したQOL(HRQoL)やアウトカムに有意差が出るか否かを検証した二重盲検ランダム化比較試験があります(Ancicancer Res. 2014; 34: 7327-7337.)。

 

全生存期間中央値は、メラトニン 10mg群7.23ヶ月(95% CI; 3.15-10.78)、20mg群6.9ヶ月(95% CI; 3.45-11.96)、プラセボ群7.46ヶ月(95% CI; 3.61-9.86)で有意差がありませんでした。FACT-Lで評価したHRQoLに関しては、メラトニン群において「社会的健康感」の項目で2.69 ポイント(0.01-5.38; P=0.049)の改善が見られたものの、「身体的健康感」「精神的健康感」「機能的健康感」「総合」では改善は得られませんでした。

 

緩和医療を受ける72人の進行期がん患者を、メラトニン群(20mg/日)とプラセボ群に振り分けて、QOLに有意差が出るか否かを検証した二重盲検ランダム化比較試験があります(Cancer. 2015; 121: 3727-3736.)。

 

開始前と開始後のスコアの変化は、各々「メラトニン群 vs. プラセボ群」で、倦怠感(-2.8±15.9 vs. -3.9±18.1, P=0.47)、不眠(-9.9±23.4 vs. -4.6±30.9, P=0.36)、食欲(-0.8±25.4 vs. -3.2±21.6, P=0.88)、疼痛(0.8±19.3 vs. 1.9±22.2, P=0.82)、精神的健康感(-0.6±23.5 vs. 3.3±18.5, P=0.36)、QOL(-0.8±13.6 vs. -3.2±19.2, P=0.41)であり、メラトニンによるQOLの改善効果は確認されませんでした。

 

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意味深長なメタ解析での華々しい勝利に反して、その後の試験では惨憺たる有様です。もしも、メラトニン界のポーリングの異名まであるかどうかは知りませんが、イタリア人医師リッソーニのお膝元で臨床試験に参加することができれば、奏功群に入れるように数字上の工面はしてくれるかもしれません。しかし、実益はというと相当に厳しいのではないでしょうか。

 

ついでに言わせていただきますと、奏効率や生存率の改善が得られないのは合点がいくとしても、「概日ホルモンを謳っているのにどちて睡眠ですら勝てないの?ねぇどちて?」と心のどちて坊やが首を傾げていますよ。

 

日本全国のがん診療医がこぞってメラトニン個人輸入することになる日はまだまだ遠いようです。幸いにして税関職員が白目をむくこともなさそうです。

 

もちろん、最終的には個々人でご判断していただくしかないのですが、現時点での私の結論は「自分の患者に奨めることはないし、自分で服用することもない」です。