yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

「自由診療医各位。高濃度ビタミンC療法のシステマティックレビューが出ているのでご確認下さい。」

 

多くの自由診療系のクリニックでは、その抗がん作用やQOL(quality of life)改善作用を謳い文句として、がん患者さんに「高濃度ビタミンC療法」を提供しています。この治療を受けていらっしゃる患者さんの心の中を想像するに、「眉唾かもしれないけど、べら棒に高いわけでもないし、少なくとも害はなさそうだから試しに受けてみようか」と言ったところではないでしょうか。

 

しかし、自由診療界のニコラス・ケイジとも呼べるこの治療法は、根拠がとても薄く、明らかに盛っているのではないか、という懐疑的な見方が大勢を占めています。

 

2015年度に入り、The Oncologist誌に、5つのランダム化比較試験を含む総勢35論文、8,563名にも及ぶ患者を対象として、ビタミンCの抗がん作用について解析されたシステマティックレビューが掲載されました。

 

ステマティックレビューとは、ある臨床的疑問に対して検討された同質の研究を網羅的に調査し統合して分析する研究手法のことです。同じ目的を有する臨床試験でも、背景や設定が異なれば結果もまちまちになることは少なくありません。その辺りのバイアスを極力排除して統合してみたらどうなのよ、ということです。もちろんその手法自体にも問題点はありますが、一応エビデンスレベルとしては最高位です。

 

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“Is There a Role for Oral or Intravenous Ascorbate (Vitamin C) in Treating Patients With Cancer? The Oncologist. 2015; 20; 210-223.

 

全文フリーダウンロード可能なので詳細は記載しませんが、結論部分だけ引用しておきます。

 

We have found no consistent evidence for an antitumor effect in terms of improved response rates or improved survival outcomes and also no evidence supporting an improvement in quality-of-life measures associated with ascorbate use in patients with malignancy in a controlled setting.

 

簡潔に申し上げれば、「ビタミンCに臨床的に意味のある抗がん作用やQOL改善作用がある、という証拠を見つけることはできませんでしたとなります。意訳すれば、「がん患者さんが高濃度ビタミンC療法を受けるメリットはあるとは考えにくい」とも言えます。

 

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こうした指摘には必ず反論がつきます。

 

「抗がん作用がある証拠がなくても、抗がん作用がない証拠にはならない」

悪魔の証明です。「ビタミンCに抗がん作用がある、という証拠を見つけることはできない」という持って回った言い回しではなく、「ビタミンCには抗がん作用はありません」と歯切れよく言いたいところなのですが、良心的な医療者であれば断言はしないものです。そこを付け込まれるわけですが、医療者たるや「抗がん作用が否定されていない治療」ではなく、「抗がん作用が証明された治療」で医療を行ってください。

 

「実際に良くなった患者がいる」

帰納です。どのように良くなったのか?他の治療を併用していなかったのか?その方の他に治療を受けた人が何人いて、その中で何人が良くなり何人が良くならなかったのか?個人の体験談は根拠としては最低レベルです。

 

「まともな試験がないだけで、真の評価にはもっと質の高い試験が必要だ」

循環論法と言えるでしょうか。これまでの臨床試験にも、抗がん剤としてのビタミンCの価値を篩に掛けるだけの質は十分にあるわけです。莫大な費用と時間とマンパワーを必要とする質の高い臨床試験は、有望な治療法に宛がわれるのが普通であって、既に勝算が立たなくなったビタミンCには更に検討するだけの価値がありません。それでも、実行する必要があるのであれば自由診療医が行えばよいと思います。

 

「抗がん作用やQOL改善作用がなくても、患者に希望と満足感を与えている」

論点のすり替えです。希望や満足感はもちろん大切な要素ですが、論点は「何を根拠に高濃度ビタミンCを行っているのか?」であり、希望や満足度を議論しているわけではありません。

 

「標準治療医よりも、自由診療医の方が親身に相談に乗っている」

人身攻撃です。科学的反証が難しいので、批判者の態度を攻撃するわけです。態度が不遜な医療者が少なくないのは事実です。そこは大いに反省し、大いに改善する努力をしなくてはなりません。しかし、自由診療医にとっての患者さんは「患者」ではなく「顧客」なので、自ずと接客にも力が入ることでしょう。本当に優しい人は優しいことばかり言いません。

 

「抗がん作用はなくても、その抗酸化作用がもたらす利益まで奪うのか?」

藁人形論法と言えるでしょうか。仮に何某かの利益があるとしても超絶的に微々たるものでしょう。だからこそ、これまでの臨床試験では何も判明しなかったのです。物凄く大規模で物凄く質の高い試験を実現できれば、何某かの利益が判明するかもしれませんが、それは費やしたお金と時間に見合うものでしょうか?同じお金と時間でも、食べたいものを食べ、行きたいところに行き、過ごしたい人と過ごす、という方法で費やした方がよっぽど有意義だと思います。

 

「科学的に証明されていなくても、実際に抗がん作用がある物質は存在するはず」

反論にもなっていませんが、具体的に「科学的に証明されていないが、実臨床で抗がん作用として利用されている薬剤」の一例を挙げて頂き、その物資とビタミンCの関連性を説明して頂く必要があります。

 

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何度となく指摘されたことではありますが、私も指摘しておきます。

 

もしもビタミンCが本当に有用ならば、製薬会社も医療者も放っておく理由がありません。その他の化学療法とは比較にならないほど安全性が担保され、ほとんどの化学療法との併用が可能なのですから、ここに有用性が加わればはっきり言って無敵です。医療者側からいえば、まず「とりあえずビタミンCを併用しておこう」となるでしょう。企業側からしても、たとえ個々には安価であっても、需要は膨大で企業利益も相応でしょうから飛び付くはずです。そうした動きが「皆無」である時点でお察し下さい、ということなのです。

 

何度でも申し上げますが、私が批判しているのは高濃度ビタミンC療法ではなく、高濃度ビタミンC療法で商売をしている人たちです。根拠のない治療を根拠があるように見せかけて提供するのは詐欺に等しい行為ですし、藁にもすがる思いの人に藁を投げつけるのは人道的に許しがたい行為です。

 

最後に至極当然のことを言っておきます。「ビタミンCを摂取するメリットがある人は、ビタミンCが欠乏している人だけ」です。こうした事実は何度でも繰り返しお伝えしていくしかないと思います。高濃度ビタミンC療法にお金と時間をつぎ込んでしまう人が一人でも減ることを切に願っています。