「高濃度ビタミンC療法<実状編>」
第4回は「高濃度ビタミンC療法<実状編>」をお送りしたいと思います。
第3回までで調べたように、高用量ビタミンC療法あるいはビタミンCサプリの抗がん作用とがん予防効果には、確固としたエビデンスがないと言わざるを得ない状況です。
それでは、このような現状の中で実際に高濃度ビタミンC療法を推奨しているグループはどの様な背景でそれを実施しているのでしょうか?大変に興味があります。
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まずは点滴療法研究会(会長:柳澤厚生医師)のホームページ(http://bit.ly/YY0jhJ)を覗いてみましょう。
第2回で挙げた肯定系の論文とin vitroのデータを並べて、「高濃度ビタミンC療法には抗がん作用がある」ことがまるで既成事実であるかのような文言が並んでいます。まあそれは予想されたことではありますが。
注目すべきは「この治療が適している方とは」の項目です。「〇〇の人たちは高濃度ビタミンCを受けた方が良い」と言っているわけですから、それなりの理由がなくてはなりません。順に見てみます。
(1)標準的ガン治療が無効の場合
第2回でも言いましたが、もう一度言います。標準治療に無効ながんの患者さんの生存期間を延長したという報告は、20~40年前のポーリング&キャメロングループの3報と日本のグループの1報しかないのです。これらは何れも、ランダム割付を伴わない過去のコントロールを伴うコホート研究であり、エビデンスレベルは2bです。それ以後の再現性を証明した質の高い追従研究はなく、到底有効ですよとは言えないのです。
PNAS 1976; 73: 3685-3689. (http://1.usa.gov/YT2vRM), PNAS 1978; 75: 4538-4542. (http://1.usa.gov/YT2yg8)、Int J Vitam Nutr Res Suppl. 1982; 23: 103-113. (http://1.usa.gov/ZXBsXP)、Med Hypotheses. 1991; 36: 185-189. (http://bit.ly/ZXvN3X)
(2)標準的ガン治療の効果をより確実にする
高用量ビタミンCを標準治療と併用すると、標準治療よりも効果が改善したとする論文はこの世に存在しません。かりに、あくまでもかりに百歩譲ったとしても第2回で挙げた膀胱癌に対する「BCG膀胱注入+高用量マルチビタミン」(J Urol. 1994; 151: 21-26. (http://1.usa.gov/X9lxYM))のみです。
(3)標準的ガン治療の副作用を少なくする
動物実験では、ビタミンCが抗がん剤の副作用を軽減するという報告が幾つかあります。実際に人を対象とした化学療法ではどうでしょうか?探してみるといくつかヒットしました。中には好意的な結果を報告しているものもあります。しかし、何れもビタミンCを含むサプリであり、「高用量ビタミンCが標準的がん治療の副作用を少なくする」ことを示した報告は皆目見当たりません。
①Mutat Res. 2001; 498: 145-158.(http://bit.ly/142TsUV)
シスプラチンを含む化学療法を受けた進行期癌において、ビタミンCを含む抗酸化サプリはその毒性を軽減しない。
②Eur J Cancer. 2004; 40: 1713-1723.(http://bit.ly/142qT9X)
シスプラチンを含む化学療法を受けた進行期癌において、ビタミンCを含む抗酸化サプリはその毒性を軽減しない。
③Jpn Heart J. 1996; 37: 353-359. (http://1.usa.gov/11EQ5Q0)
ビタミンCを含む抗酸化サプリは放射線療法による心臓毒性から保護する効果があるかもしれないが、化学療法による毒性は保護しない。
④Head Neck. 1994; 16: 331-339.(http://1.usa.gov/X9joMB)
ビタミンCを含む抗酸化サプリは、口腔癌に対する化学放射線療法中の口腔粘膜障害を減じるかもしれない。
⑤Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1993; 26: 413-416.(http://1.usa.gov/ZXqUYw)
ビタミンC外用は、脳腫瘍に対する放射線照射に伴う放射線性皮膚炎を軽減しない。
(4)良好な体調を維持しながら寛解期を延長させる
QOLを改善するという報告は3報ありました。それでも「高濃度ビタミンCが終末期がん患者のQOLを改善する」とするには十分なエビデンスではありませんし、決して「QOLを改善する=抗がん作用がある」ではありません。
① J Korean Med Sci. 2007; 22: 7–11. (http://1.usa.gov/YVAvgj)
39人の終末期悪性腫瘍患者に高用量ビタミンCを静脈投与したところQOLが改善した、というものですが、単一群の試験でありエビデンスレベルは4です。
②In Vivo. 2011; 25: 983-990. (http://bit.ly/X5nmR8)
125人の乳癌患者に対する化学療法または放射線療法中に、高用量ビタミンCの静脈投与を行いQOLが改善した、というランダム割付を伴わない同時コントロールを伴うコホート研究でエビデンスレベルは2aです。
③Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2004; 13: 1651-1659. (http://bit.ly/15UUVLe)
40人の悪性腫瘍に伴う食欲不振や全身衰弱に対して、ビタミンCを含む抗酸化サプリの内服(静脈投与ではありません)はQOLを改善した、というランダム化比較試験であり、エビデンスレベルは1bです。
(5)代替治療として希望する場合
私はこれが最も言ってはならないフレーズだと思っています。「あ・な・たが希望したからやってるんですよ」「もう他に治療は残されていないんでしょ?あ・な・たが望むのなら自己責任でうちの治療に(ダメもとで)かけてみませんか」の意図が透け透けでドギマギしちゃうレベルです。ただの責任転嫁です。まっとうな医療者が吐く言葉ではありません。どんなにパターナリズムと言われようが、これは譲ることができません。
最後に「有効な抗ガン剤や放射線治療がある場合は併用を推奨します」の一文が見えます。これも定番中の定番の常套句です。なにゆえエビデンスが全く存在しない併用療法を勧めるのでしょうか?答えは明確です。最期(死ぬ)まで責任を持って患者さんの面倒を診ることができないからです。かかりつけの病院で標準治療を受けてさえくれていれば、体調が悪くなった時にそちらの病院に丸投げすることができるからです。もっと言えば、たとえ体調の悪化が高濃度ビタミンCの副作用であった場合にだって丸投げしかねません。「あなたが元気で金づるになる間は私たちのところに通ってくださいね、でも死にそうになって金づるとしての価値がなくなったら来なくていいですからね」と言っているのと同義語なのです。断じて患者さんのためを思ってではありません。自己保身のためです。
次に高濃度ビタミンC点滴療法学会(理事長:宮澤賢史医師)のホームページ(http://bit.ly/YLBSnF)も覗いてみます。
膨大な量の高濃度ビタミンC療法に関する歴史、機序、効果、適応などの記載が丁寧に記載されています。内容は非常に膨大ですが、ホームページの大半が高濃度ビタミンCの優しさで彩られています。バファリン®に含まれる優しさなんか遥かに超越しています。優しさに溢れすぎて読むのがめんどくさくなるレベルです。
適応については、『①現在の病気に対し有効な治療法がない②従来の治療方法だけではうまくいかない③現在の治療と併用してIVC(高濃度ビタミンC療法)を行なうことでよりいっそうの改善を期待したい』となっており、点滴療法研究会と目クソ鼻クソです。
点滴療法研究会と違うのは、「注意事項」と「免責事項」を設けていることです。文言をそのまま写します。
『御注意:すでに存在する有効な癌治療にとって代わるものではありません。進行がんに対して、抗ガン剤や放射線治療の副作用を軽減し、効果をより高めるものと御考えください。』
『免責事項:本サイトは、分子薬物研究会によって運営される公式サイトです。資料・情報の正確性・完全性について、いかなる保証もいたすものではありません。本サイトはIVC治療における様々な情報の提供が目的であり、特定の治療法を推奨するものではありません。本サイト内の情報につきましては、ご自身の責任の元に施行して頂きますようお願いいたします。IVC治療については、年々新しい情報が出されているために、サイト内の情報もそれに伴い更新されるべきものと考えてください。他の医療と同じく、このIVC治療にも予測不可能な現象が生じることがあることを理解してくださいますようお願いいたします。実際の臨床ではプロトコールとは異なる内容の治療を行わざるを得ないケースもあり、こうした場合も含め全ては担当医師の判断が優先されること、そして全責任もその医師にあることをご承知おきください。本サイト上の資料・情報が不正確・不完全であることが原因で発生した損失や損害について、運営者は一切の責任を負いかねます。』
慎重といえば確かにそうなのですが、どうも責任を回避するための布石にしか見えず、より周到でより姑息でより老練でより醜悪な文言の羅列と思います。いじめで自殺をした学生が通っていた学校の校長が、何よりも真っ先に自分たちの正当性を主張するのを見た時に抱くのと同質の嫌悪感を抱いてしまうのは私だけでしょうか?
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自分で勉強するまでは「なにが高濃度ビタミンC療法だ?レモンのかたまりを何個食ったってがんなんか治るはずねえだろ!」と思っていたのですが、今回の勉強により、高用量ビタミンC療法自体は、抗がん作用や延命作用においてというよりは、QOLの改善作用あたりに生き残る道があるのではないか、と思うようになりました。頭ごなしの否定的な姿勢は自省しなくてはなりません。それらはさらに良質な臨床試験で検証されても良いと思います。それが実証されれば患者さんにとって本物の福音となるはずです。
私が単純に思うのは、「そんなに高濃度ビタミンC療法の抗がん作用を信じているのなら、保険診療ができるように働きかける努力をすればいいのに」ということです。是非、ランダム化比較試験を立案、実行して、その効果を立証する努力をしてください。このような研究会を立ち上げて、お金を儲けるシステムを構築する実行力があれば十分に可能だと思います。そのステップなくして、蔑まれた視線と詐欺の誹りを免れる方法はないのだと思います。それをしないのは、あくまでも代替医療のままでいたい、あくまでも自由診療のままでいたいからです。高濃度ビタミンCに対する信仰ですらなく、あくまでも金儲けのネタだからです。
特に、高濃度ビタミンC療法には、「ノーベル賞受賞者のお墨付き」でなんだか「キャッチ―」でいかにも「体に良さそう」で「副作用(リスク)が少なく」て「お手軽」という、最高の条件が整っています。数ある代替医療の中でも最も初期投資や起業努力や訴訟リスクが少なくてすむ方法の一つでしょう。悪質で短絡的で低俗な医療者が飛付くには最も好都合なのです。
実際にそれを行っている人間が、どんなに誠実さと勤勉さで取り繕うとも正当性は微塵もなく、身体的に弱い立場の人たちの深層心理を利用して金儲けをしているモラル・ハザードの権化に過ぎないのです。中には「僕らはワラにもすがる末期がん患者さんに希望の光を与えてあげているんだ」とお門違いに胸を張っている人間まで出てくる始末です。
高濃度ビタミンC療法を含む多くの代替医療に対する批判は、それ自体が批判の対象なのではなく、それを扱う人間に対する批判であることを忘れてはいけません。