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yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

「私が実践している補完医療を紹介してみる」

 

「お前はブログで代替医療や補完医療の批判ばかりしているが、ただの代替補完医療否定論者ではないのか?」というご指摘をいただいたことがあります。

 

私のモットーはブログのサブタイトルにも掲げているように、「安価で安全な代替・補完医療を求めて」であり、代替・補完医療そのものの否定を主義主張にはしておりません。しかし、ネットで拾うことができる代替・補完医療の情報には不適切なものが著しく多いため、必然的に批判的な態度になりがちなのだと自己分析しています。

 

何を隠そう、血液内科医として総合病院に勤務している私自身にも、日常診療において補完医療を導入している局面が少なからずあります。私が患者さんに勧めている補完医療の採用基準を以下に示しますが、いたってシンプルです。

 

 

今回は、私が実践している補完医療をご紹介させていただこうと思います。

 

 

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睡眠

 

Sleep disruption impairs haematopoietic stem cell transplantation in mice.

Nat Commun. 2015; 6: 8516.

 

アメリカはスタンフォード大からの報告です。論文タイトルからもわかりますが動物実験です。動物実験の結果が人間においても再現される保証は全くありません。通常であれば、動物実験の結果を鵜呑みにして実践するのは非常に危うい行為です。しかし、今回は敢えて紹介させていただきます。

 

睡眠時間の長いマウスと、睡眠時間の短いマウスから造血幹細胞を採取し、その性質を比較する実験を行いました。長時間睡眠群では、成長ホルモンの増加などを介して、造血幹細胞の遊走能や骨髄へのホーミング能が向上することが示唆されました。そしてその造血幹細胞を使用して移植を実施すると、長時間睡眠群の方がドナー造血の再構築が迅速になることも示されています。

 

私はこの報告をもって、自家末梢血幹細胞移植を控えている患者さんや、同種造血細胞移植のドナーさんに、「造血細胞採取の前日は、夜更かしせずに十分に休んでくださいね」と助言することにしています。

 

ただし冒頭に申し上げたように、この現象は飽くまでもマウスで確認されただけで、人間においても同様の影響があるか否かは分かりません。造血幹細胞採取の前日に睡眠時間を十分確保することにリスクは伴わないであろうと判断したうえで敢えて勧めているのです。間違っても「採取前日の睡眠確保」のために無暗に睡眠薬を勧めてはなりません。

 

 

夜食を控える

 

Prolonged Nightly Fasting and Breast Cancer Prognosis.

JAMA Oncol. 2016. PMID: 27032109

 

カリフォルニア大からの報告です。アメリカの多施設が参加して、早期の浸潤性乳癌患者を対象に、食事内容と乳癌のアウトカムの関連性を調査することを目的としたコホート研究が行われました。この研究に参加した3088名のうち、糖尿病ではない2416名のデータ利用したポストホック研究です。

 

1晩の絶食時間が13時間未満だった患者は、13時間以上だった患者に比べ、乳癌死亡と全死亡には有意差を認められなかったものの、乳癌再発リスクが36%高いことが示されました(HR=1.36(95%CI: 1.05, 1.76), P=0.02)。

 

私はこの報告をもって、担癌患者さんには「夜食はなるべく控えましょうね」と助言することにしました。

 

「1晩の絶食時間が長い」ことと「乳癌再発リスクが減る」ことは相関関係に過ぎず、両者の間に因果関係が存在するかは不明です。その他の癌腫患者でも同じ現象が見られるか否かも不明です。しかし、夜食を控えることが癌に及ぼす本当の影響は不明ではあるものの、代謝系への悪影響を少なくすることができると「常識的に」判断したため、敢えて助言をするようにしたわけです。

 

この種のアドバイスには別の危険も伴います。それは癌患者に対して「断食療法」といった過激な方法を推奨している医療者に取り込まれる危険性があるからです。「断食療法」は動物実験の結果(Sci Transl Med. 2012; 4: 124ra27.)を主張の拠り所としています。人間での有効性や安全性に関してはほぼ未開の領域と言って良いレベルです。間違っても拡大解釈して「断食療法」に突き進んではなりません。

 

 

有酸素運動

 

Subgroup effects in a randomised trial of different types and doses of exercise during breast cancer chemotherapy.

Br J Cancer. 2014; 111: 1718-1725.

 

有酸素運動には、化学療法を受ける癌患者の身体機能の向上・維持のみならず、癌に伴う各種症状や治療の副作用を緩和する効果があることは以前から知られています(Cochrane Database Syst Rev. 15: CD008465. )。しかし、どの程度の運動強度が最適なのかは知られていませんでした。

 

カナダの多施設から、乳癌の術後化学療法を受ける患者296名を対象に、1日25-30分の有酸素運動を1週間に3日実施する「standard」群、1日50-60分の有酸素運動を1週間に3日実施する「high」群と、1日50-60分の有酸素運動と抵抗運動を1週間に3日実施する「combination」群の三群に無作為に振り分けて、自覚症状や治療の副作用に差が生じるか否かを検証した研究の報告がありました。

 

SF-36による「体の痛み(SMD=+3.6(95%CI: +1.0, +6.1), P=0.006)」、FACT-ESによる「ホルモン療法の副作用(SMD=+4.2(95%CI: +1.7, +6.7), P=0.001)」、FACT-taxaneによる「タキサン系抗癌剤の副作用(SMD=+3.8(95%CI: +1.6, +5.9), P=0.001)」共に、「high」群は「standard」群よりも有意に改善し、「combination」群における相加的な改善作用は明らかではありませんでした。しかし、「high」群におけるそれらの効果は、非肥満, 閉経前, 若年, そして運動能力が保たれている患者に限定されていました。

 

私はこの報告をもって、化学療法を受ける患者さんに「週に3日程度を目安に一定時間の有酸素運動をしましょうね。もちろん無理のない範囲でね」と助言することにしています。

 

間違っても運動すること自体を主目的としてはなりません。運動は飽くまでも手段なのですから。体調が思わしくない時、天候が悪い時、気分が乗らない時は大いに休めば良いのです。

 

内関刺激

 

Acupuncture-point stimulation for chemotherapy-induced nausea and vomiting.

J Clin Oncol. 2005; 23: 7188-7198.

 

手のひらを上にして、手首の曲がりじわから指3本分上がった場所の2本の腱の間にあるツボは内関(P6)と呼ばれ、古くからそのツボの刺激には妊娠中のつわりや車酔いに対する緩和作用があると言われています。医療の領域でも、術後や化学療法の吐き気に対する効果が数多く検証されています。

 

化学療法による嘔気、嘔吐に対する内関刺激の効果を検証することを目的としたメタ解析があります。このメタ解析は、11のランダム化比較試験、1247名を対象としています。

 

「遅発性(24時間~1週間)の嘔気・嘔吐」に対する効果は不明瞭でしたが、「急性期(24時間以内)の嘔気・嘔吐(RR=0.82(95%CI: 0.69, 0.99), I2=0%, P=0.04)」には軽減効果があることが示唆されています。

 

私はこの報告をもって、化学療法を受ける患者さん、特に以前の化学療法の際に嘔気のコントロールが不良だった患者さんに対して「内関を刺激すると吐き気がほんの少しだけ和らぐかもしれませんよ」と伝えることにしています。興味があるという方には「小豆などを内関にあてて包帯で巻く」や「シーバンド(リストバンドの内側にツボ刺激の突起が付いているやつ)の着用」といった方法を提案しています。

 

しかし鍼灸臨床試験においては、二重盲検ランダム化比較試験の実施が不可能です。被験者に対する偽鍼の開発は進歩しているものの、施術者側の盲検化が困難であるためです。従って十分にバイアスを取り除くことができません。つまり結果の評価には少々慎重になる必要があります。実際に鍼灸の効果の殆どがプラセボ効果であることが明らかになりつつあります。

 

しかし、私が敢えてこの方法を提示することがあるのは、ほぼ無害と考えているからです。制吐剤の進歩にも目覚しいものがあり、このメタ解析以降にも幾つかの新しい制吐剤が使用可能になっています。間違っても「化学療法の副作用の軽減」を目的に鍼灸院への受診を勧めたりしてはなりません。

 

口腔内冷却療法

 

Efficacy of oral cryotherapy on oral mucositis prevention in patients with hematological malignancies undergoing hematopoietic stem cell transplantation: a meta-analysis of randomized controlled trials.

PLoS One. 2015; 10: e0128763.

 

抗癌剤の副作用の一つに口内炎があります。口内炎といっても、小さなものが一ヶ所といったレベルではなく、多発したり口中に広がったりします。口内炎が悪化すると、疼痛によるストレスのみならず、口腔ケアが十分できなくなったり、食事摂取ができなくなったりしてしまいます。

 

ある種の化学療法において、口内炎の予防を目的とした口腔内冷却療法の試みがあります。口腔内冷却療法とは、抗癌剤投与時に氷を舐めたり、氷水でうがいを繰り返したりして、とにかく口の中を冷やす治療のことです。

 

高用量メルファランを含む前処置を用いた造血幹細胞移植を受ける造血器腫瘍患者を主体として、口腔内冷却療法の有効性を検証することを目的としたメタ解析があります。このメタ解析は、7つのランダム化比較試験、458名を対象としています。

 

「重症口腔粘膜障害の罹患期間」「高カロリー輸液期間」「入院期間」の項目では効果は認められなかったものの、「重症口腔粘膜障害の罹患率(RR=0.52(95%CI: 0.247, 0.99), I2=66.1%, P=0.011)」「口腔粘膜障害の重症度(SMD=-2.07(95%CI: -3.90, -0.25), I2=96.9%, P=0.000)」「鎮痛剤使用期間(SMD=-1.15(95%CI: -2.57, 0.27), I2=90.5%, P=0.001)」の項目では、口腔内冷却療法群で改善効果が示唆されました。

 

私はこの報告をもって、高用量メルファランを含む前処置を用いた造血幹細胞移植を受ける造血器腫瘍患者さんに対して、例外なく「口腔内冷却療法の実施」を指示することにしています。

 

注意点としては、口腔内冷却療法はあらゆる化学療法に対して効果が期待できるわけではありません。高用量メルファラン以外にも、フルオロウラシル静注の際にも実施されることが多いのですが、両剤の共通点は半減期が短いことにあります。メルファランは6-16分、フルオロウラシルじゃ10-20分と言われています。氷を長時間舐め続けることは困難ですので、半減期が非常に短い薬剤でないと実効性がないと考えられます。

 

間違っても盲目的に口腔内冷却療法を実施してはなりません。冷たく寒い思いをするだけです。

 

 

おまけ

 

現在個人的に注目しているのは、「ある種の抗腫瘍薬をコーラで内服する」というものです。

 

Influence of the Acidic Beverage Cola on the Absorption of Erlotinib in Patients With Non-Small-Cell Lung Cancer.

J Clin Oncol. 2016; 34: 1309-1314.

 

上皮成長因子受容体のチロシンキナーゼを選択的に阻害するエルロチニブは、水ではなくコーラで内服すると、生物学的利用能が改善するかもしれないという報告があります。エルロチニブはプロトンポンプ阻害剤(PPI)などの制酸剤と一緒に内服すると、体内吸収が阻害されることが知られています。であれば酸性飲料で内服したらその吸収阻害が解除されるのでは?という発想のようです。

 

28人の非小細胞肺癌患者において、エソメプラゾール(PPI)とエルロチニブを、水で内服する群とコーラで内服する群に無作為に振り分け、7日後の薬物血中濃度を測定しました。内服後12時間の時間曲線下面積(AUC0-12h)は、水群で9.0±19.9 μg・h/mL、コーラ群で11.8±14.9 μg・h/mLであり、平均AUC0-12hはコーラ群で39%(-12%~136%; P=0.004)上昇しました。また最高血中濃度(Cmax)も水群で1.08±152 μg/mL、コーラ群で1.43±112 μg・h/mLであり、平均Cmaxはコーラ群で42%(-4%~199%; P=0.019)上昇していました。

 

エルロチニブを炭酸飲料で内服すると、体内への吸収効率は確かに向上しそうです。医療経済的なメリットが産まれる期待感はありますが、これによる治療奏功率、生存期間、そして有害事象などへの影響に関しては何の吟味もされていません。間違ってもこの報告をもってしてコーラでの服用を勧めてはなりません。早計に過ぎます。

 

但し血液内科領域でも、慢性骨髄性白血病の治療薬であるBcr-Ablチロシンキナーゼ阻害薬(ニロチニブやダサチニブ)などもまた、PPIによって吸収が低下することが知られているので、同一の仮説が成り立つかもしれません。続報を楽しみにしています。

 

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今回の内容をまとめてみますと、よく寝て、夜食控えて、時々運動して、気が向いたら腕を揉んでってことになり、正直あまり刺激的な内容とは言えません。しかしこれが現実だと思います。真面目に代替・補完医療に取り組んでいれば、ビジネスとは相性が悪いであろうことが分かります。      

 

「高名」らしき人物が勧める「最新」あるいは「伝統的」らしき相応の「対価」を求めてくる代替・補完医療は、須らくビジネスを目的としたインチキだと考えても、あなたに何の不都合も生じることはありません。迷うことなく却下していただいて無問題です。

 

代替・補完医療の領域には「〇〇で治療効果が劇的にアップ!」とか「〇〇で副作用が完全に消える!」などという夢のような話は存在しません。裏を返せば、魅惑的な話には疑ってかかるのが吉なのです。無駄な時間とお金を費やしてしまう方が一人でも減ることを祈っています。