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yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

「某有名自由診療クリニックが紹介する『抗がん剤治療の効果を高める補完療法』を検証する⑥ 〜セレン、αリポ酸、ジインドリルメタン、アヴェマー、牛車腎気丸〜」

 

某有名自由診療クリニックが奨める『抗がん剤治療の効果を高める補完療法』を検証するシリーズ。第1回はメトホルミン、第2回はアセチル-L-カルニチン、第3回はビタミンD3、第4回はDHA/EPA、第5回はメラトニンを検証しました。結論は何れも「自分の患者に奨めることはないし、自分で服用することもない」でした。

 

第6回(最終回)はセレン、αリポ酸、ジインドリルメタン、アヴェマー、牛車腎気丸です。

 

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f:id:ASIA11:20151119135437j:plainセレン       

 

セレン原子番号34の必須元素です。

 

外科的切除をしたI期非小細胞肺がん患者を、セレン(200μg/日, 4年間)を摂取する群としない群に振り分けて、再発率と二次悪性腫瘍の発症率に有意差が出るか否かを検証した二重盲検ランダム化比較第三相試験があります(J Clin Oncol. 2013; 31: 4179-4187.)。

 

中間解析では、「セレン群 vs. プラセボ群」で再発1.91/100人年 vs. 1.36/100人年, 5年無病生存率72% vs. 78%となり、早期中止勧告となりました。最終的な解析対象は1561人で、再発1.62/100人年 vs. 1.30/100人年(P=0.294)、全二次性悪性腫瘍3.54/100人年 vs. 33.39/100人年、5年無病生存74.4% vs. 79.6%(P=0.069)、5年生存76.8% vs. 79.9%(P=0.154)と両群間に差を認めませんでした。

 

外科的手術後に放射線照射を受ける81人の子宮がん患者を、セレンを摂取する群としない群に振り分けて、長期アウトカムに影響が出るか否かを検討したランダム化比較試験があります(Integr Cancer Ther. 2014; 13: 463-467.)。

 

セレン群 vs. 非セレン群」で、10年無病生存は80.1% vs. 83.2%(P=0.65)、10年全生存は55.3% vs. 42.7%(P=0.09)であり、長期予後には影響がないと考えられました。

 

f:id:ASIA11:20151119135437j:plainαリポ酸      

 

αリポ酸はチオクト酸とも呼ばれるビタミン様物質です。

 

シスプラチン、あるいはオキサリプラチンを含む化学療法を受ける70人の担がん患者を、αリポ酸(1,800mg/日)を摂取する群とプラセボを摂取する群に振り分けて、24週目の末梢神経障害の程度に有意差が出るか否かを検証したランダム化比較試験がMDアンダーソンがんセンターで実施されました(Support Care Cancer 2014; 22: 1223-1231.)。

 

「αリポ酸群 vs. プラセボ群」で、FACT/GOG-Ntxスコア3.7±5.1→9.6±7.6 vs. 3.0±4.1→9.7±8.1、BPIスコア1.7±2.3→1.9±2.4 vs. 1.8±1.7→1.3±1.6、6ボタン付け28±16→32±19秒 vs. 33±33→29±15秒、50フィート歩行17±14→17±11秒 vs. 20±27→15±6秒、4コイン拾い6±4→6±2秒 vs. 6±3→6±2秒であり、何れも有意差を認めませんでした。

 

f:id:ASIA11:20151119135437j:plainジインドリルメタン 

 

ジインドリルメタンは「ブロッコリーやケールなどのアブラナ科の植物や野菜に含まれる」物質だそうです。

 

子宮頚がんスクリーニングで軽度細胞診異常を指摘された551人の女性に対して6ヶ月間ジインドリルメタン(150mg/日)を投与する群とプラセボを投与する群で、その後のアウトカムに差がでるか否かを検証した二重盲検ランダム化比較試験があります(Br J Cancer. 2012; 106: 45-52.)。

 

「ジインドリルメタン群 vs. プラセボ群」で、子宮頸部上皮内腫瘍グレード2進展率8.8% vs. 12.4%(RR=0.7(95% CI; 0.4-1.2), P=0.198)、子宮頸部上皮内腫瘍グレード3進展率4.6% vs. 5.1%(RR=0.9(95% CI; 0.4-2.0), P=0.796)、細胞診陰性化50.0% vs. 55.7%(RR=1.13(95% CI; 0.93-1.37), P=0.214)であり、組織学的進展に影響がないと考えられました。

 

f:id:ASIA11:20151119135437j:plainアヴェマー     

 

アヴェマーは「発酵小麦胚芽抽出エキスを主成分とした」物質だそうです。

 

外科的手術を受けた170人の直腸大腸がん患者を、術後化学(放射線)療法と共にアヴェマー(9g/日)を摂取する群としない群に患者希望で振り分けて、再発、転移、死亡のイベントの発生率に有意差が出るか否かを検証した比較試験があります(Br J Cancer. 2003; 89: 465-469.)。

 

「アヴェマー群 vs. 非アヴェマー群」で、再発率3.0% vs. 17.3%(P<0.01)、転移率7.6% vs. 23.1%(P<0.01)、死亡率12.1% vs. 31.7%(P<0.01)、無増悪生存率(P=0.0184)、全生存率(P=0.0278)において、アヴェマー併用群が優っているという結果でした。

 

化学療法を受ける22人の小児癌患者に対して、アヴェマー(12g/m2/日)を併用する群と併用しない群に患者希望で振り分けて、化学療法期間中の有害事象を検証した比較試験があります(J Pediatr Hematol Oncol. 2004; 26: 631-635.)。

 

「アヴェマー群 vs. 非アヴェマー群」で、発熱性好中球減少症(FN)の罹患率24.8% vs. 43.4%(P=0.037)、平均FN期間6.1日 vs. 8.9日(P=0.108)、骨髄抑制期間中の白血球数中央値900/μL vs. 800/μL(P=0.021)、リンパ球数中央値700/μL vs. 500/μL(P<0.001)でした。

 

高リスクⅢ期黒色腫に対して外科的切除後にダカルバジンによる化学療法を受ける52人の患者を、アヴェマー(8.5g/日)を併用する群と併用しない群に振り分けて、アウトカムに有意差が出るか否かを検証した第二相ランダム化比較試験があります(Cancer Biotherapy & Radiopharmaceuticals. 2008; 23: 477-482.)。

 

「アヴェマー群 vs. 非アヴェマー群」で、無増悪生存の平均は55.8ヶ月vs. 29.9ヶ月(P=0.0137)、全生存の平均66.2ヶ月 vs. 44.7ヶ月(p=0.0298)でした。

 

試験デザインが非ランダム化試験であったり、ランダム化でも二重盲検でなかったりするためエビデンス的にはもう一つですが、なかなか期待を持てる結果である気がします。しかし、2008年以降にはこの物質を用いた臨床試験が見当たらず、訝しさが払拭できません。

 

f:id:ASIA11:20151119135437j:plain牛車腎気丸     

 

この漢方は標準治療医の中でも化学療法起因性末梢神経障害に対して処方する人は少なくないと思います。

 

182人の外科的切除後の大腸がん患者に対して、術後mFOLFOX6(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)療法を実施する際に、牛車腎気丸(7.5g/日)を併用する群とプラセボを併用する群で末梢神経障害に有意差が出るか否かを検証した日本の多施設共同二重盲検ランダム化比較第三相試験があります(Int J Clin Oncol. 2015; 20: 767-775.)。

 

中間解析で、Grade 2以上の末梢神経障害は、牛車腎気丸群50.6%、プラセボ群31.2%(HR=1.908, P=0.007)であり早期中止勧告となってしまいました。

 

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これらの他にもシリマリン、水素ガス吸入療法、ジクロロ酢酸ナトリウム、ノスカピン、キサントン40などを紹介していますが、まともな臨床試験が存在しないために検証自体が困難という状況です。

 

このクリニックで奨めている『抗がん剤治療の効果を高める補完療法』と称するものは総じて、「机上の理論あるいは実験室レベルの研究や症例報告を含めた小規模研究では有効性が示唆されたものの、適切にデザインされた中規模以上の比較試験では既に否定されており、推奨・支持できるものではない」というのが現時点での結論です。

 

曲がりなりにも補完医療でご飯を食べている人が、この結論に至っていないのであればあまりに不勉強ですし、至っているのに黙しているのであればあまりに不誠実です。お金になりそうもない補完医療情報には首尾一貫、徹頭徹尾で口を閉ざしていますから、おそらく後者(あるいは両者)だと思います。

 

EBMからもっともかけ離れた領域で商売をしている人が、迷えるがん患者を取り込むために、体裁だけはエビデンスに依拠してEBM風を装う姿は見ていて吐き気を覚えます。確証バイアスだらけの脆弱なエビデンスを誇示するのは、EBMを理解する能力が不足しているか、意図的に曲解を促しているかのどちらかです。

 

本当にEBMを実践したいのであれば、そしてがん患者の役に立ちたいのであれば、限りなく黒に近い灰色の補完医療情報を流布して惑わせるようなことはしません。こうした行為に羞恥心や罪悪感を抱かないのは、患者のことなど二の次で、私腹に拘泥するあまりすっかり理性のたがが外れてしまっているからでしょう。「人はこれほどまでに見境なく搾り取ろうとできるのか?良心の呵責はないのか?」が素直な感想です。医療者としても人間としても信用を置くことができません。

 

この方面の方々が、がん診療の結果の部分には何ら責任を負う気概はないけれども、がん患者の決断の部分には確と影響力を持ちたいというのは甚だ虫の良い話です。しかしその背景には、患者の決断を支援しきれていない標準医療側の問題もあるかと思います。私個人も常に自省する姿勢を忘れたくないものです。

 

ニセ補完医療情報に振り回され、無駄な時間とお金を費やすのは私だけで十分です(一連の検証には相応の時間とお金を費やしています)。

 

もちろん、最終的には個々人でご判断していただくしかないのですが、現時点での私の結論は「自分の患者に奨めることはないし、自分で服用することもない」です。