yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

「統合医療系クリニックに対して思うこと」

現代社会において、標準治療では如何ともし難い病態を有する方々や標準治療を好まない方々、場合によっては何の病気も有さない健常人を対象として、自由診療の枠組みで代替医療や補完医療を提供する統合医療系のクリニックが全国各地にごまんと存在する。

 

統合医療系クリニックは大抵の場合、高濃度ビタミンC、ニンニク注射、マイヤーズ・カクテルだけではなく、プラセンタ、キレーション、血液クレンジング、免疫細胞療法なども幅広く取り扱っている。

 

高濃度ビタミンC、ニンニク注射、マイヤーズ・カクテルなどは大別するとオーソモレキュラー療法に含まれる。簡単に言うと、適切な栄養素と糖質コントロールを用いて細胞の自然治癒力を導き出し病気を治そうという治療法のことだ。

 

一方、プラセンタ(胎盤由来の成長因子を投与しよう)、キレーション(不要な金属は体外排泄しよう)、血液クレンジング(血液をオゾン化しよう)、免疫細胞療法(自分の免疫担当細胞を活性化してがんを治そう)は明らかにオーソモレキュラーとは一線を画しており、同じ統合医療でも別枠と考えられる。

 

世の中の殆どの医者は表面的には「オーソモレキュラーもキレーションも血液クレンジングも免疫細胞療法も全部素晴らしい」と主張するか、「オーソモレキュラーもキレーションも血液クレンジングも免疫細胞療法も全部マユツバだ」と主張するかのどちらかのパターンに属するように見える。

 

個人的な印象ではあるが、「オーソモレキュラーは素晴らしいけど、免疫細胞療法はトンデモだよね」とか「免疫細胞療法は最高だけど、オーソモレキュラーは詐欺だよね」と各論的に主張する医者は極めて少数派だ。

 

私を含めた医者が「オーソモレキュラーもキレーションも血液クレンジングも免疫細胞療法も全部マユツバだ」と考える理由は明確だ。有効性がまるで実証されていない治療があたかも有効であるかのような文言で誘導し、それには全くそぐわないような高額な対価を得ている詐欺行為のように見えるからだ。

 

「オーソモレキュラーは素晴らしいけど、免疫細胞療法はトンデモだよね」とか「免疫細胞療法は最高だけど、オーソモレキュラーは詐欺だよね」も不本意でながらスタンスとしては一応ありだとは思う。自分が専門としたり研究したりしている治療の効果を信じるのは一種の信念や哲学でもあり理解はできる。

 

しかし、「オーソモレキュラーもキレーションも血液クレンジングも免疫細胞療法も全部素晴らしい」は全く理解できない。実証されていない事象を次から次へと無条件に本気で信じ込んでしまうのであれば、それはもはや信念や哲学を有する医者とは呼べず、単なるとんだ低能トンチキバカ野郎でしかない。

 

「あそこのご主人は〇〇神社でお祓いしてもらったら病気が治ったらしいのよ、ご利益あるらしいわよ」とか「あそこの長男は父親があんな罪を犯したから病気になっちゃってね、きっと心身ともに罪を償えば元気になるわよ」などの噂話を鵜呑みにしてお祓いや禊ぎを勧めているのと同レベルだ。

 

はたして医師国家試験をパスする程度の知能を持ち合わせる者の中に、そんな低能トンチキバカ野郎がごまんと存在するのだろうか?もちろん、稀ながらその全てや一部を信じてしまっている洗脳医者が存在するであろうことは想像に難くないが、ごまんと存在するとなると想像するのは少々難しいと思う。

 

私は、彼らの相当数は本気で統合医療の効果を信じている訳ではなく信じている風を演じているのだと解釈している。そうでないと、まるで統合医療開業マニュアルでも存在するかのように判で押したような統合医療系クリニックが全国に数多存在する理由を上手く説明できない。

 

では、なにゆえ実証もされず自由診療でしか実施できない統合医療の効果を信じている風を演じる必要があるのだろうか?理由は簡単だ。それがビジネスだからだ。彼らにとっては、統合医療を「自由診療で提供する」ことが命題なのであって、そのためには信じている風を貫く必要がある。

 

ありとあらゆる人間には必ず死が訪れる。死に直面した際に、その死を先延ばしにすることができる方法があるのであれば藁にも縋りたくなるのが心理であろう。その心理に付け込んで成り立っているビジネスの一つが統合医療ビジネスなのだと思う。

 

統合医療の医者にとっては、正直患者自身がどうなろうと知ったこっちゃなく、単に金のなる木や打出の小槌みたいに見えているのであろうなと想像する。そりゃ自然と扱いが懇切丁寧にもなるだろうなと思う。しかし、そこにはヒューマニズムやアカデミズムの欠片もなく、あるのはエゴイズムだけだ。

 

実しやかに都市伝説を面白おかしく語って仕事を維持する芸能人や、それらしいことを言って顧客を集める占い師と本質的には大差がない。検証困難なことを主張しておけば、いざ批判されても「否定されたという証拠もあるまい」という悪魔の証明理論で生き延びることができる。

 

医療の進歩は目覚ましく人間の寿命は著しく延びているのに、最期の段階での「不老不死を望んだ秦の始皇帝が徐福にカモられて大金をつぎ込んだくせに結果的には命を縮めた」という構図は、古代から現代にいたるに実はあまり変わっていないというのは皮肉だ。

 

因みに、これらの意見は一部のS田クリニックやSレンクリニックなどの「免疫細胞治療専門クリニック」に対して「彼らは免疫細胞療法だけを信じているから筋が通っていてエラいよね」と擁護しているものでは一切ない。

 

免疫細胞療法の中にも、樹状細胞療法やらペプチドワクチン療法やらナチュラルキラー細胞療法やらαβT細胞療法やらγδT細胞療法やら細胞障害性T細胞療法やら色々あって、それらにも全く同じことが言えるからだ。彼らも見事に節操がない。

 

一つ一つの代替・補完医療を吊し上げて批判しているのではない。各々は大いに研究され実用性があればどしどし実臨床に導入されればいいと思っている。批判の対象は常に統合医療で泡銭を稼ごうとしている医療者であることは忘れてはいけない。