yocinovのオルタナティブ探訪

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「放射線とビタミンC」

点滴療法研究会(http://bit.ly/ZGsOx9)の柳澤厚生会長が、『放射線被ばくに関する公式声明(2011.03.29)』(http://bit.ly/17Tl3rQ)の中で、『ビタミンCは強力な抗酸化物質として放射線障害を防ぐ』ことが証明されたと明言しています。

 

これまで私は、10年以上にわたって造血幹細胞移植に従事し、造血器疾患の患者さんたちに全身放射線照射を含む移植前処置を行ってきましたが、残念ながらビタミンC放射線障害を軽減するという話を見たことも聞いたこともなく過ごしてきました。これは、偏に私の勉強不足に起因した不徳の致すところなのかもしれません。良い機会ですので、ビタミンCによる放射線障害の軽減作用に関して勉強してみたいと思います。

 

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最初に、柳澤医師が『被ばく対策.net』(http://bit.ly/17RoM9u)の中で、『ビタミンCは被ばくで発生した活性酸素を強力に抑えることで、細胞膜や遺伝子の損傷を防ぎます』とする根拠として紹介している3つの医学論文を見てみたいと思います(http://bit.ly/17pBPMp)。

 

一つ目が「J.Nucl Med 1993: 34; 637-640.http://bit.ly/14rSG5f」です。

彼は、その要旨をこのように説明しています。

 

『ビタミンCが内部被ばくの障害を防ぐ』

マウスに放射性ヨウ素131を注射し内部被ばくさせる。その後ビタミンCを注射や食事で与えると精子放射線に対する耐性が2.2倍強くなった。この時の注射量を人に換算すると60kgの人で3gに相当します。

 

実際にこの論文を読んでみて、私が要旨を書くとしたら以下の様になります。

「体重30gのマウスの精巣に放射性ヨウ素131131I)を直接投与(内部被曝モデル)すると、精子の生存率は用量依存性に低下する。しかし、事前に15μgのビタミンCを精巣内に注入しておく、あるいは高ビタミンC食を摂取させておくと、精巣内131Iのクリアランス自体に改善は見られないものの、精子放射線耐性が2.2倍高まった。ただし、体外から放射線をあてた(外部被曝モデル)場合はその効果は再現されなかった」

 

まず、これがあくまでも動物実験であることに留意しなくてはなりません。直ぐに人間に応用できるかのように喧伝するのは完全な飛躍です。そして、何よりも気になるのは、論文ではビタミンCを「被曝前」に投与したとあるのに、彼は「その(被曝)後」と表現しています。「被曝後でもまだ間に合うんだよ」という印象を与えるための恣意的な情報操作と疑われても仕方ないと思います。外部被曝モデルには効果がなかった、という結果が割愛されていることにも作為的なものを感じざるを得ません。そらから、「体重30gのマウスに対するビタミンC 15μg、が体重60kgの人間の3gに相当する」という文言にも「ホントに?」と首を傾げたくなります。そんな単純計算でいいのでしょうか?

 

まあまあこれらの気になるところ全てに目をつぶって、かつ百歩譲ったとしても、「内部被曝する前にビタミンCを精巣に直接注入しておけば、精子をいくらか温存できるかもしれない」と主張すべきであって、「どんなタイミングであろうとビタミンCを摂取さえすれば内部被曝による全般的な障害を防ぐ」という印象を抱かせる記述は明らかに不適切だと思います。

 

 

二つ目は「J Radiat Res 2010, 51, 145156.http://bit.ly/14rS7II」です。

彼は、その要旨をこのように説明しています。

 

『ビタミンCが急性放射線障害から守る』

体重あたり150mgのビタミンC3日間与えたマウスと通常食のマウスに、14Gy放射線を照射。通常食では骨髄移植をしても全マウスが死亡したが、ビタミンCを与えたマウスは42%が生存した。研究者らはビタミンC活性酸素の生成を抑えることによりDNAの障害を防ぎ急性放射線被ばくによる障害を防げたと考察しています。

 

実際にこの論文を読んでみて、私が要旨を書くとしたら以下の様になります。

C57BL/6マウスは、6Gyまでの全身放射線照射(外部被曝モデル)では骨髄移植で造血機能をレスキューしなくても死に至らないが、8Gy以上では骨髄移植を行わないと死んでしまう。しかし照射量が14Gyに達すると、たとえ骨髄移植をしてもその消化管毒性により生存できなくなる。一方、照射前に150mg/kgのビタミンC3日間経口投与しておくと、消化管毒性が軽減し、42%が生存できるようになる。但し、照射後に同量のビタミンCを投与しても同様の効果は得られなかった。また、事前のパイロット試験として実施した1500mg/kgの高用量では、逆にその副作用により全例死亡した」

 

まず、これがまたもや動物実験であることに留意しなくてはなりません。そして、照射後のビタミンC投与や、より高用量のビタミンCでは上手くいかなかったことなど、ネガティブな情報は示さない、という同様の手法を繰り返しています。

 

それにしても、これこそ典型的な「語るに落ちる」モデルなのだと思います。なぜなら、この論文では「6Gyまでの外部被曝では死に至らない」「ビタミンCの『外部被曝による消化管毒性を軽減する』恩恵を受けられるのは、14Gy外部被曝を受けたマウス」と言っているのですから。今回の原発事故で6Gyを超える外部被曝をした方は存在しないので、この文献を論拠とするならば「幸いビタミンCを投与すべき人はいませんでした」という結論になるわけです。

 

少々脇道にそれますが、この文献は外部被曝のみならず、「骨髄移植を受ける患者さんにもビタミンCが有効です」という印象を与えているので、「骨髄移植(造血幹細胞移植)とビタミンC」でpubmed検索もしてみました。すると、このような文献が引っ掛かってきます。

Am J Clin Nutr. 2000; 72: 181-189.http://bit.ly/17rlDdo

24(全身放射線照射を受けたのは4)の同種移植患者さんを対象とした研究によると、強化した点滴栄養をしなくても、通常の点滴栄養をしていれば血液中のビタミンC濃度は低下しない。

Bone Marrow Transplant. 1995; 15: 757-762.http://1.usa.gov/ZJNNNd

ブスルファン+シクロホスファミド+エトポシドの前処置を受けた7人の移植患者さんを対象とした研究によると、血液中のビタミンC濃度は低下しない。

 

移植をしたからといって、そうそうビタミンC欠乏に陥るわけではなさそうです。

 

さらに、こんな文献も見つかりました。

J Am Diet Assoc. 2003; 103: 982-990.http://bit.ly/17TVbfy

1182人の移植患者さんを対象とした観察コホート研究によると、急性白血病患者に対する移植前に500 mg/日以上のビタミンCを摂取すると、非再発死亡(相対危険度 2.25; 95%CI 1.33-3.83; p=0.01)、ならびに全死亡(相対危険度 1.63; 95%CI 1.09-2.44; p=0.01)が増えるかもしれない。

 

ビタミンCによって、知らず知らずのうちに移植成績を貶めている、なんて事態が起きているかもしれません。

 

さらにさらに、このような文献もみつかりました。

Nephrol Dial Transplant. 2005; 20: 1970-1975.http://bit.ly/17TTIpG

10人の腎臓移植患者さんを対象とした研究によると、ビタミンC(500mg/), ビタミンE(400IU/), βカロテン(6mg/)の内服は、腎臓移植後のシクロスポリンのトラフ値を平均24%低下させる。

Nephrol Dial Transplant. 2006; 21: 231-232.http://bit.ly/17UlK4q

56人の腎臓移植患者さんを対象とした研究によると、ビタミンC(1000mg/), ビタミンE(300mg/)の内服は、腎臓移植後のシクロスポリンのトラフ値を低下させる(-14±25 vs. 10±30 mg/L, p=0.003)

J Heart Lung Transplant. 2005; 24: 990-994.http://bit.ly/17TU9Ai

29人の心臓移植患者さんを対象とした研究によると、ビタミンC(1000mg/), ビタミンE(800IU/)の内服は、心臓移植後のシクロスポリンのトラフ値を平均30%低下させる。

 

シクロスポリンは固形臓器移植後の拒絶反応、骨髄移植後の移植片対宿主病を予防するための鍵となる重要な薬です。ビタミンCによってその血中濃度が低下し、拒絶反応や移植片対宿主病が誘発される、なんて事態も起きているかもしれません。

 

少なくとも現時点で言えるのは、移植において「ビタミンCの効果は不明瞭かもしれないけど、害があるわけじゃないからとにかく摂取しておこう」という盲信的なビタミンC摂取は避けておいたほうが無難だ、ということだけです。害がないとは言い切れないのです。

 

 

三つ目は「Mutat Res. 1994; 316: 91-102.http://bit.ly/13czzHD」です。

彼は、その要旨をこのように説明しています。

 

『ビタミンC放射線に対して人間の白血球を強化する』

朝食時にビタミンCを体重1kgあたり35mg(体重60kgの人で2.1gのビタミンC)を飲んだ時とそうでない時に血液を採取。その白血球に2Gy放射線を照射して遺伝子の傷の数を比較した。ビタミンCを飲むと傷の数が減少し、飲んで4時間後の効果が最大であった。

 

実際にこの論文を読んでみて、私が要旨を書くとしたら以下の様になります。

「朝食時にビタミンCを体重1kgあたり35mg摂取した後に、6名の健常人から採取した全血有核細胞(白血球)に2Gy放射線を照射してDNA損傷解析(comet assay; Exp Cell Res. 1988; 175: 184-191.)を実施すると、摂取していなかった場合よりも遺伝子損傷の程度が減少していた。同様の保護効果は朝食のみ、またビタミンCのみの場合にも観察され、朝食とビタミンCの相加的効果と考えられた。単核球(リンパ球)分画においては、この保護効果はDNA損傷解析では再現されたが、生存解析(microtiter assay; Int J Radiat Biol. 1988; 54: 929-943.)と染色体異常誘発能解析(micronucleus formation analysis; Mutation Res. 1986; 161: 193-198.)では再現されなかった」

 

繰り返し指摘するのにもやや飽きましたが、ネガティブな情報は提示しないポリシーには嫌気がさします。自身にとって都合のよい部分だけを切り取って論文紹介をする意図の裏には「どうせ素人には分かりっこない」という侮りがあるのかもしれません。

 

 

次に、彼のグループが実施し、彼自身が発表し、そして『福島原発作業員に対して、高濃度ビタミンC点滴と抗酸化サプリメントを通じた対策によって、癌リスクを低減させることが明らかとなりました』と主張する研究(第13回国際統合医学会(現国際個別化医療学会)学術集会, 東京, 2011.10.22)(http://bit.ly/17Rp3cx)を査読してみましょう。

 

表題福島原発作業者に対する高濃度ビタミンC点滴と抗酸化サプリメントによる介入

対象20113月以降に56週間、福島原発の敷地内で汚染水処理、コンクリート吹き付け、汚染測定、瓦礫撤去作業に従事した東京電力協力会社の孫請け建設作業員男性17(3259)

方法4名に関しては派遣前ならびに派遣完了後、13名に関しては派遣完了後に血液検体を採取し、①血球計算と生化学②血漿free DNA47癌関連遺伝子④癌リスク値、を算出した。

介入

①高濃度ビタミンC 25g+ビタミンB1/B2/B3/B5/B6/B12点滴

②ビタミンC 1g+αリポ酸+レニウム+ビタミンE+マルチミネラル・ビタミン服用

4名に関しては派遣前に①、派遣期間中に②を実施した。13名に関しては派遣完了後に①+②を実施した。

結果:派遣前から介入した4名に関しては、派遣完了後時点で4名中1名が血中free DNAが軽度増加、癌リスク値は全例で正常値であった。派遣完了後に介入した13名に関しては、派遣完了後時点で13名中2名がfree DNAが増加、13名中3名で癌リスク値が増加したが、介入後はfree DNAが全例で正常化、癌リスク値は3名中2名で正常化した。

結論原発作業者の被ばく予防対策としてビタミンC点滴や抗酸化栄養素の摂取を直ちに実施すべきである。

 

疑問1free DNAと癌リスク値とは?

GeneScience社(http://bit.ly/17WvF9t)のホームページにその記載があります。遺伝子損傷の程度や癌発症の予見に関して、これらのマーカーがどれほど有用であるかは正直に申し上げて知りません。しかし、日常臨床としてこれらが実用されている事実は一切ありません。

 

疑問2:派遣完了後時点でのfree DNA増加例は、派遣前介入群4名中1名、派遣完了後介入群13名中2名だが、これは派遣前の介入がfree DNAを低下させたといえるのか?

→フィッシャーの正確確率検定を行うと、p=0.5794、オッズ比検定を行うと、オッズ比1.8395%信頼区間 0.12-27.80)であり、統計学的な有意差を認めません。「派遣前からの介入が、free DNAを低下させた」と言えないのは明らかです。

 

疑問3:派遣完了後時点での癌リスク値増加例は、派遣前介入群4名中0名、派遣完了後介入群13名中3名だが、これは派遣前の介入が癌リスク値を低下させたといえるのか?

→フィッシャーの正確確率検定を行うと、p=0.4206、オッズ比検定を行うと、オッズ比0.3395%信頼区間 0.01-7.78)であり、統計学的な有意差を認めません。つまり「派遣前からの介入が、癌リスク値を低下させた」とは言えません。

 

疑問4:派遣完了後介入群の中でfree DNA高値であった2名は介入後正常化、癌リスク値高値であった3名中2名で介入後正常化とあるが、これは介入による効果なのか?

→自然経過でfree DNAや癌リスク値が改善した可能性を否定するためには、介入群とプラセボ群でのランダム化比較試験が必要です。よって、数値の改善が介入の結果であったと結論することはできません。

 

この研究は、処置前後の比較などの前後比較,対照群を伴わない研究、あるいはケースシリーズ扱いで、エビデンスレベルとしては45程度の研究だと思われます。ですから彼は、エビデンスレベル45のパイロット介入試験を行って、「ビタミンCfree DNAや癌リスク値を改善することは統計学的に証明できない」と発表したことになります。それなのに蓋を開けてみれば『被ばく予防対策としてビタミンC点滴や抗酸化栄養素の摂取を直ちに実施していくべきである』と真逆の強弁を張っています。この結論は主張でもなんでもなく、ただの詭弁なので全くもって支持できません。

 

どうしたら、このクォリティーの研究で、ここまで居丈高にお門違いに胸を張れるのか理解できません。ちなみにこの研究は、研究プロトコールの作成や倫理委員会の承認、そしてインフォームドコンセントの取得などの正当な手筈を踏んでいるのでしょうか。甚だ疑問です。

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「ビタミンCに害がないなら別に良いじゃないか!」という声が聞こえてきそうです。それであるならば、点滴療法研究会の柳澤医師こそが福島に出向いて、完全ボランティアとしてビタミンC点滴と抗酸化サプリメント配布をして回れば済むことです。

 

内部被曝にしろ外部被爆にしろ、高額な費用をつぎ込んでまで高濃度ビタミンC点滴を受けたり抗酸化サプリメントを摂取したりするだけのメリットは皆無ですし、そもそも東京大学の早野先生のグループの調査により福島の住民の内部被曝が予想よりも低かったことが明らかにされており(http://bit.ly/14nLUx0)、かりにビタミンCに効果があったとしても、放射線障害を軽減する目的でビタミンCを受けるべき人はこの世には存在しないといえるのです。

 

これは決して福島の原発作業者や住民に向けての心あるメッセージではありません。「福島以外に住み、低線量被曝に過度の不安を持つ人たち」に向けての偽善という覆面を被ったエゴメッセージなのだと思います。「被曝が心配なら我々のところにビタミンC点滴を受けに来て下さい。我々のところに抗酸化サプリメントをお買い求めに来て下さい」という。

 

消費者を侮り、弄ぶにも程があります。私たちは、このような腐敗しきったクソみたいな医療者に踊らされてはならないと思います。