「<別冊>ビタミンCは発がんを予防できるか?」
第3回では、高用量ビタミンC療法とは少々離れますが、「<別冊>ビタミンCは発がんを予防できるか?」をお送りしたいと思います。
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サプリの発がん予防効果を評価するにはいくつかの手法があります。
1つ目は、実際にがんを発症した人(ケース)と、背景を合せた発症していない人(コントロール)のビタミンC摂取状況を比較する「ケース・コントロール研究(CCS)」です。
2つ目は、ビタミンCを多く摂取する習慣の群(コホート)、あるいは少なく摂取する習慣の群を追跡し、発がん率を比較する「前向きコホート研究(PCS)」です。
そして3つ目は、対象となる人をビタミンCのサプリを飲ませる群と飲ませない群にランダムに割付けて、2群間の発がん率を比較する「ランダム化比較試験(RCT)」です。
順にエビデンスレベルは上がります。
主体はCCSなのですが、フランスの”The SU.VI.MAX Study”や、中国の“The Linxian trials”など、数万人規模のRCTも存在します。本来は幾つかのサブグループ解析もあるのですが、大まかな結論が分かるように「がんを抑制するかも」という結論のものを赤字、「がんを抑制しないかも」という結論のものを青字で表記しました。領域ごとに見てみましょう。
癌全体
JAMA. 2009; 301: 52-62.(http://bit.ly/X93Kvs)
RCT。ビタミンCを含む抗酸化サプリ8年摂取は癌罹患率を抑制しない。
Natl Cancer Inst. 2009; 101: 14-23.(http://bit.ly/13SsWNQ)
RCT。女性においてビタミンCを含む抗酸化サプリ9.4年摂取は癌罹患率と癌死亡率を改善しない。
Arch Intern Med. 2004; 164: 2335-2342.(http://bit.ly/13SqtTJ)
RCT (The SU.VI.MAX Study)。ビタミンCを含む抗酸化サプリ7.5年摂取は男性においては発癌を抑制するかもしれないが、女性では抑制しない。
Arch Intern Med. 1998; 158: 1181-1187.(http://bit.ly/Y32QVg)
RCT。地中海料理はガンとガン死を抑制するかもしれなく、それにはビタミンCが関与している可能性しているかもしれない。
Am J Epidemiol. 1995; 142: 1269-1278.(http://bit.ly/X8USLI)
PCS。食事由来のビタミンCのは中年男性の癌と心血管系死を抑制するかもしれない。
J Natl Cancer Inst. 1993; 85: 1483-1492.(http://bit.ly/XbvCUZ)
RCT(The Linxian trials)。ビタミンCサプリは全死亡、癌死亡を抑制しない。
Nutr Cancer. 2012; 64: 245-254.(http://bit.ly/ZwwzSQ)
CCS。女性においてビタミンCはDLBCLのリスクを抑制するかもしれない。
脳腫瘍
Environ Health Perspect. 1998; 106 Suppl 3: 887-892.(http://bit.ly/11ns1kr)
CCS。妊娠期のビタミンCを含むマルチビタミンは小児の脳腫瘍を抑制するかもしれない。
Cancer Causes Control. 1994; 5: 177-187.(http://1.usa.gov/11GnGZI)
CCS。妊婦のビタミンCサプリは乳幼児の脳星状細胞腫を抑制しない。
甲状腺癌
Cancer. 1997; 79: 2186-2192.(http://1.usa.gov/Y36Vc1)
CCS。ビタミンCは甲状腺癌を抑制するかもしれない。
口腔癌、喉頭癌、下咽頭癌
Int J Cancer. 2005; 117: 992-995.(http://bit.ly/15US70F)
CCS。喉頭癌、下咽頭癌発症前の食事由来ビタミンCが多い人は予後良好の可能性。
Nutr Cancer. 1994; 21: 223-232.(http://bit.ly/XbvaWY)
CCS。口腔癌、喉頭癌患者において、食事由来のビタミンCは二次性発癌を抑制するかもしれない。
Nutr Cancer. 1990; 14: 219-225.(http://bit.ly/ZXxbDI)
CCS。黒人において食事由来のビタミンCは口腔癌、喉頭癌を抑制するかもしれない。
肺癌
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006; 15: 1562-1564.(http://bit.ly/141XLzY)
RCT(The Linxian trials)。ビタミンCを含むサプリは肺癌死を抑制しない。
Am J Epidemiol. 2004; 160: 68-76.(http://bit.ly/15V6eDo)
PCS。喫煙男性では食事由来のビタミンCを含む抗酸化物質は肺癌を抑制するかもしれない。
皮膚癌、悪性黒色腫
J Nutr. 2007; 137: 2098-2105.(http://bit.ly/13UpHWn)
RCT(The SU.VI.MAX Study)。ビタミンCを含む抗酸化物質サプリ7.5年摂取は、女性における皮膚癌(HR=1.68; P = 0.03)、特にメラノーマ(HR = 4.31; P = 0.02)のリスクを増やすかも知れない。
Eur J Cancer. 2010; 46: 3316-3322.(http://bit.ly/13Sqx5O)
RCT (The SU.VI.MAX Study)。ビタミンCを含む抗酸化サプリで上昇した皮膚癌のリスクはその内服の中断により改善する。
子宮癌
Int J Gynecol Cancer. 2010; 20: 398-403.(http://bit.ly/13SrnQ4)
多施設横断研究。ビタミンCは子宮頸部上皮内腫瘍を抑制するかもしれない。
Cancer. 1993; 71: 3575-3581.(http://1.usa.gov/Xbwmth)
CCS。食事由来のビタミンCは子宮内膜癌を抑制するかもしれない。
乳癌
Breast Cancer Res Treat. 2010; 119: 753-765.(http://bit.ly/13SrHhB)
PCS。ビタミンCを含む抗酸化物質は乳癌を抑制しない。
Int J Cancer. 1996; 65: 140-144.(http://1.usa.gov/X8UwEI)
CCS。ビタミンCは乳癌を抑制しない。
肝臓癌
J Natl Cancer Inst. 2007; 99: 1240-1247.(http://bit.ly/X98p0i)
RCT(The Linxian trials)。ビタミンCは肝臓癌死を抑制しない。
膵臓癌
Ann Oncol. 2011; 22: 202-206.(http://bit.ly/13Sr73q)
CCS。ビタミンCは膵臓癌を抑制するかもしれない。
J Gastroenterol. 2005; 40: 297-301.(http://bit.ly/142mPH1)
CCS。食事由来のビタミンCは日本人の膵臓癌を抑制するかもしれない。
Int J Cancer. 1992; 51: 365-372.(http://1.usa.gov/ZXuXUN)
CCS。食事由来のビタミンCは膵臓癌を抑制するかもしれない。
胃癌
J Natl Cancer Inst. 2007; 99: 137-146. (http://bit.ly/13UqYws)
RCT。ビタミンCを含む抗酸化サプリ3年摂取は胃癌を抑制しない。
J Natl Cancer Inst. 2006; 98: 974-983.(http://bit.ly/141Ygdt)
RCT。ビタミンCを含むサプリは胃前癌病変、胃癌を抑制しない。
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2005; 14: 2087-2092.(http://bit.ly/Xfw9Aa)
PCS。喫煙男性においてビタミンCは非噴門部胃癌を抑制するかもしれない。
食道癌
J Cancer Res Clin Oncol. 2002; 128: 575-580.(http://bit.ly/15VbwPc)
CCS。男性においてビタミンCは食道癌を抑制するかもしれない。
Cancer Res. 1994; 54(7 Suppl): 2029s-2031s.(http://bit.ly/11Gn2vu)
RCT(The Linxian trials)。ビタミンCは食道癌を抑制しない。
大腸癌:
Nutr Cancer. 2012; 64: 798-805.(http://bit.ly/ZwvElt)
CCS。食事由来のビタミンCは日本人男女の大腸がんリスクを抑制しない。
腎細胞癌
Int J Cancer. 2007; 120: 892-896.(http://bit.ly/XeF58O)
CCS。ビタミンCは腎細胞癌を抑制するかもしれない。
Int J Cancer. 1996; 65: 67-73.(http://1.usa.gov/X8UIUH)
CCS。緑黄色野菜は腎細胞癌を抑制するかもしれないが、ビタミンCサプリは抑制しない。
前立腺癌
Acta Oncol. 2009; 48: 890-894.(http://bit.ly/X5vqRO)
CCS。ビタミンCは前立腺癌を抑制しない。
JAMA. 2009; 301: 52-62.(http://bit.ly/X93Kvs)
RCT。ビタミンCを含む抗酸化サプリ8年摂取は前立腺癌を抑制しない。
J Natl Cancer Inst. 2006; 98: 245-254.(http://bit.ly/13QzsES)
PCS。食事あるいはサプリによるビタミンCは前立腺癌を抑制しない。
Int J Cancer. 2005; 116: 182-186.(http://bit.ly/142neJr)
RCT (The SU.VI.MAX Study)。ビタミンCを含むサプリは前立腺癌を予防しない。
卵巣癌
Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2004; 13: 1521-1527.(http://bit.ly/15UVlRX)
CCS。食事由来のビタミンCは卵巣癌を抑制するかもしれない。
膀胱癌、尿路上皮癌
Br J Cancer. 2002; 87: 960-965.(http://bit.ly/142IIWA)
PCS。食事由来のビタミンCは喫煙男性の膀胱癌を抑制しない。
Am J Clin Nutr. 2012; 96: 902-910.(http://1.usa.gov/ZwviLu)
CCS。血中のビタミンC濃度の高低は尿路上皮癌の発症に影響しない。
世界中の臨床試験を収集して統計学的に統合して質的評価をする「コクランライブラリー」も探してみました。見つかったのは肺癌(http://bit.ly/XdY2xF)と消化器癌(http://bit.ly/YKOCFb)で、何れもビタミンCによる予防効果を否定しています。
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全部に目を通すのには嫌気がさすほどの数の報告があります。喉頭癌や下咽頭癌、子宮癌、膵臓癌では肯定的な論調のものが多く、乳癌、前立腺癌、膀胱癌では否定的な論調のものが多い印象はありますが、各々のバイアスも十分に検討できていませんし、大規模なメタ解析やシステマティックレビューがないため、結論付いたことは言えません。しかし、皮膚癌にいたっては、ビタミンCを含む抗酸化サプリが女性においてリスクを増やす可能性まで示唆されており、「がんを抑えられるかもしれないんだって」とか「体にいいに決まってんでしょ」とか「本田翼ちゃんてカワイイよね」というだけのモチベーションで無闇にビタミンCを摂取し続けるメリットはあったとしてもとても少ない気がします。
加えて、ビタミンCには「女性における皮膚癌」のリスクに寄与している可能性の他にも、いくつかのリスクとの関連が示唆されています。男性において白内障のリスクが1.21倍(Am. J. Epidemiol. 2013; 177: 548-555. (http://bit.ly/Zw3839))、多量のビタミンCサプリ(1日約1000mg)の使用者は、非使用者と比べ腎結石の発症リスクが1.92倍(JAMA Intern Med. 2013;173(5):386-388. (http://bit.ly/Zw51wN))、喫煙肺癌男性においてビタミンCとビタミンEを同時摂取すると肺結核のリスクが高まる(Br J Nutr. 2008; 100: 896-902. (http://bit.ly/X96qJt))などが挙げられます。さらに、G6PD欠損症ではビタミンCが溶血を引き起こすことは知られていますが、その水保持作用から心不全、浮腫、腹水、透析患者では禁忌とすべきとする論文(Ann NY Acad Sci. 1987; 498: 1145-454. (http://bit.ly/YTWN85))もあるので、盲信的な長期摂取には注意が必要そうです。
続きは第4回「高濃度ビタミンC療法<実状編>」へ