yocinovのオルタナティブ探訪

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「高濃度ビタミンC療法<臨床試験編>」

2回では「高濃度ビタミンC療法<臨床試験編>」をお送りしたいと思います。

 

静脈投与至上主義に辿りついた高用量ビタミンC療法ですが、その抗がん作用に期待した研究者たちが、盛んに臨床試験を行うまでに成長しています。

 

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再びスポットライトを浴びるようになった後(浴びる前のもありますが)、数多くの高用量ビタミンC静脈投与を組み込んだプロトコールが臨床試験として行われ、また既に報告されています。おそらく全て拾い切れていないとは思うのですが、それでも下に列挙したようにとにかくたくさんあります。

PLoS One. 2012; 7: e29794. (http://bit.ly/Zww8YO):膵臓癌

Cancer. 2012; 118: 3968-3976. (http://bit.ly/X5jvn5):骨髄増殖性腫瘍

Cancer. 2012; 118: 2507-2515. (http://bit.ly/X5odRU):多発性骨髄腫

Am J Hematol. 2011; 86: 796-800. (http://bit.ly/X5p2dl):骨髄異形成症候群と急性骨髄性白血病

Eur J Haematol. 2009; 82: 433-439. (http://bit.ly/13SsgIl):多発性骨髄腫

Biol Blood Marrow Transplant. 2008; 14: 1401-1407. (http://bit.ly/13UnSIP):多発性骨髄腫

Hematol Oncol. 2009; 27: 11-16. (http://bit.ly/13Uo5fh)悪性リンパ腫

Melanoma Res. 2008; 18: 147-151. (http://bit.ly/X96cSP)悪性黒色腫

Acta Oncol. 2007; 46: 557-561. (http://bit.ly/13UqAy0):大腸癌

Clin Cancer Res. 2007; 13: 1762-1768. (http://bit.ly/X99yF7):多発性骨髄腫

Haematologica. 2006; 91: 1722-1723. (http://bit.ly/XeEow6) :多発性骨髄腫

Br J Haematol. 2006; 135: 174-183. (http://bit.ly/141XxZS) :多発性骨髄腫

Med Oncol. 2006; 23: 263-272. (http://bit.ly/141Yrp7) :多発性骨髄腫

Cancer. 2006; 106: 2459-2465. (http://bit.ly/141ZuFt):前立腺癌

Clin Cancer Res. 2002; 8: 3658-3668. (http://bit.ly/142Iejh) :多発性骨髄腫

Mol Aspects Med. 1994; 15 Suppl: s231-240. (http://1.usa.gov/Xbvwg6):乳癌

 

また、現在進行形の臨床試験も数多く存在します。(http://1.usa.gov/YM1rVJ)

 

現在進行形のものも含めてとにかくその守備範囲の広さには目を瞠るものがあります。悪性腫瘍なら何でもありといった状況です。こと私の本業である造血器腫瘍の多さには一時的に動揺が隠せなくなり、ひとり挙動不審になりかけたのですが、おそらくは手軽で、副作用が少なさそうなので組み込みやすいのでしょう。気を取り直して先に進みます。

 

それでも「こんなにもビタミンCが取り上げられているのだから抗がん作用があるに違いない!ビタミンC万歳!ビバ・ビタミンC!」と諸手を挙げて狂喜乱舞するのはやや早計です。なぜなら、これらの全てが「化学療法+高用量ビタミンC」の単一群での臨床試験であって、高用量ビタミンCを追加したことによる純粋な相加的あるいは相乗的な効果を検証するためのデザインではないからです。ビタミンCの真の実力のほどを知るには「プラセボ vs. 高用量ビタミンC単独」あるいは「化学療法単独 vs. 化学療法+高用量ビタミンC」のランダム化比較試験が必要なのです。

 

一方で、Web上で「ビタミンCの抗がん作用を明示している」と頻回に引用されている幾つかの文献がありますのでご紹介しましょう。

 

代表的な文献は「CMAJ 2006; 174: 937-942. (http://1.usa.gov/YTcS88)」です。高用量ビタミンC療法を含めた代替療法のみで、病気のコントロールができたぜ、イエス!カモーン!という、51歳の腎細胞癌患者さんと49歳の膀胱癌患者さんと66歳の悪性リンパ腫患者さんの3名がビタミンC御三家ばりに紹介されています。なかなか魅力的です。しかしよくよく読んでみると、このお三方は一部手術や放射線療法を受けていたり、その他にも大量の代替療法を同時に受けたりしています。なので、ビタミンC単独の実力とは言えません。それから自然治癒の可能性も捨てきれません。

 

加えて、症例報告というのは、「ある治療が有効である」という証拠としては極めて脆弱なものなのです。よく考えてみてください。もし「東大病院には宝くじで3億円当たった入院患者さんが3人いる」という話を聞いたからといって、「私も3億円欲しいから東大病院に入院させて」と思うでしょうか?いや、高額当選が多いと噂される券売所には長蛇の列が出来るそうですから、そのように思われる方もいらっしゃるかもしれません。では、もう少し医療に近い喩えにしましょう。「診断はついてなくて何だかよく分からないけど化学療法しちゃったら良くなった3例」の報告ならどうでしょうか?「私の時も何だかよく分からない時は化学療法しちゃって~ウフ」と思うでしょうか?症例報告はあくまでも「こんな珍しい人がいましたよ~ん、頭の隅っこにでも入れといてちょ」というだけのものなのです。科学的な論拠の強さを示すエビデンスレベルhttp://bit.ly/X9Iuc7)も6段階中の5に過ぎません。

 

他にも高用量ビタミンC療法の抗がん作用を立証しているとされる文献が幾つかあります。

 

J Korean Med Sci. 2007; 22: 7–11. (http://1.usa.gov/YVAvgj)」では、終末期悪性腫瘍患者に高用量ビタミンCを静脈投与したところQOLQuality Of Life、生活の質)が改善した、としています。

 

Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2004; 13: 1651-1659. (http://bit.ly/15UUVLe)」では、悪性腫瘍に伴う食欲不振や全身衰弱に対して、ビタミンCを含む抗酸化サプリの内服(静脈投与ではありませんが)は、QOLquality of life, 生活の質)を改善した、としています。

 

Int J Med Sci. 2008; 5: 62-67. (http://bit.ly/13UozSk)」では、標準治療に抵抗性の前立腺癌に対するビタミンCとビタミンKの内服(これもまた静脈投与ではありません)は、PSA(腫瘍マーカー)を改善した、としています。

 

In Vivo. 2011; 25: 983-990. (http://bit.ly/X5nmR8)」では、高用量ビタミンCの静脈投与は、乳癌に対する化学療法、放射線治療中のQOLを改善した、としています。

 

J Clin Pharm Ther. 2012; 37: 22-26. (http://bit.ly/13SpjaN)」では、ビタミンCを含む抗酸化サプリの内服(これもまた静脈投与ではありません)は、乳癌に対する化学療法によるDNAダメージから保護する作用がある、としています。

 

もう一つは「J Urol. 1994; 151: 21-26. (http://1.usa.gov/X9lxYM)」です。65人の膀胱癌患者に対する「BCG膀胱内注入」と「BCG膀胱内注入+高用量マルチビタミン」のランダム化比較試験で、ビタミンCを含む高用量ビタミン群で再発が有意に低下(91% 41%, p = 0.0014)したとあります。

 

いずれにも何となく喜ばしい響きがあります。特に、QOLの改善なんかは終末期医療においては最重要課題と言っても過言ではありません。しかし、決して「QOLの改善=抗がん作用」ではありません。それに、静脈投与ではなくてサプリだったりとか、マルチビタミンだったりとか、比較試験でなかったりとか、肝心の腫瘍の縮小効果や生存期間の延長効果に関しては記載が見当たらなかったりとか、いささか抗がん作用の実証とするには役不足と言わざるを得ません。

 

つまりは、臨床試験で高用量ビタミンCの抗がん作用(延命効果)を示したのは、いまだに第1回で挙げた2040年前のポーリング&キャメロングループによる3報と日本のグループからの1報のみなのです。

PNAS 1976; 73: 3685-3689. (http://1.usa.gov/YT2vRM), PNAS 1978; 75: 4538-4542. (http://1.usa.gov/YT2yg8)Int J Vitam Nutr Res Suppl. 1982; 23: 103-113. (http://1.usa.gov/ZXBsXP)Med Hypotheses. 1991; 36: 185-189. (http://bit.ly/ZXvN3X)

 

これらは何れも、ランダム割付を伴わない過去のコントロールを伴うコホート研究であり、あくまでもエビデンスレベルは2bなのです。その後、高用量ビタミンC療法の抗がん作用を再現する質の高い追従研究はないのです。しかも、それは可能であればポーリング&キャメロングループ以外のグループからの報告であることが望ましいです。同じグループからだけの再現性のないデータには、「あいつらなんか裏でインチキ操作してんじゃね?」的な疑惑の目を向けられますから。

 

一方、否定的なものもあります。

 

Eur Urol. 2005; 47: 433-440. (http://bit.ly/142nGHC)」では、ビタミンCを含むマルチビタミンのサプリ(これもまた静脈投与ではありませんね)は未治療前立腺癌のPSAを改善しない、としています。正直、PSAが上がるとか下がるとかはあまり重要ではありませんので、これも否定する根拠としては大変弱いです。

 

J Am Coll Nutr. 2005; 24: 16-21. (http://bit.ly/15UTqwL)」では、136人の非小細胞肺癌患者に対する、「paclitaxelcarboplatin」と「paclitaxelcarboplatin+ビタミンC(6.1g/)を含む抗酸化サプリ」のランダム化比較試験の結果が報告されました。おのおの、全奏効率は33% vs. 37%、平均生存期間の中央値は 9ヶ月 vs. 11ヶ月、1年生存率は32.9% vs. 39.1%2年 生存率は11.1% vs. 15.6%で、何れも統計学的な有意差を認めていません。ビタミンC単独ではないし、投与経路も経口内服です。しかし、ランダム化比較試験ではありエビデンスレベルは1bです。

 

Ann Oncol. 2008; 19: 1969-1974. (http://bit.ly/Zw5ZcD)」では、24人の標準治療に抵抗性となった進行期癌と造血器腫瘍患者に対して、高用量ビタミンC静脈投与単独治療を行った、という第1相試験の結果が報告されました。第1相試験は、安全性の評価と第2相試験に向けて至適投与量を決めるためのものですから、治療効果を評価することは主要な目的ではありません。しかし、全奏効率は0%で、QOLの改善もなかったと記載されています。単一群の試験なのでエビデンスレベルは4です。ちなみにこの際に設定された高用量ビタミンCの最大量は、体重1kgあたり1.5g50kgの人なら75g、60kgの人なら90g)という大変な高用量です。

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いづれにしても肯定系も否定系も、結論付けるには臨床試験の質も量も十分ではありません。「高用量ビタミンC療法なんてとんでもない!」という頭ごなしの姿勢はいくぶん自省する必要があるようですが、「現時点ではどちらの側の擁護できかねます」という結論にしか到達のしようがありません。

 

しかし、しかしですね、このレベルの論拠で東スポばりに「高用量ビタミンCには抗がん作用がある(かもしれません)!!」とホームページ上に盛大に書いちゃうのは明らかに言い過ぎですし、それを宣伝材料として客寄せとお金儲けをしているのであれば、それは詐欺行為という誹りを免れることができないと思います

 

続きは第3「<別册>ビタミンCは発がんを予防できるか?」へ。