yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

近藤誠「医者に殺されない47の心得」

慶應義塾大学病院放射線科講師である、言わずと知れた近藤誠医師の新著「医者に殺されない47の心得」を読んだ。実質的には47どころか4の心得くらいに集約されている。概ね「医者は信用するな」「私は信じていい」「原始的に生きろ」「ピンピンコロリを目指せ」くらいのもんで、全229ページの文庫だが頑張れば10ページくらいの冊子にまとめられるだろうと思う。フリーペーパーとしてコンビニなんかに置いといた方が、効果的に自説を拡散できるんでないの、などと思ってみたり。

 

しかし、思いの外に頷いてしまう記述も多い。過剰検診に過剰検査、過剰診療、ポリファーマシー、タバコ、サプリメント脳ドックアンチエイジングに対する批判には完全に同意するし、細胞免疫療法を含めた「がん詐欺」商売を盛大に批判している部分では、思いがけず仲間意識すら芽生えそうな事態にまで陥りかけたわ。必ずしも類は友を呼ぶわけではなく、あくまでも孤高のトンデモを気取るわけね。慶應のプライドだろうか。

 

また、がん性疼痛への麻薬や放射線治療の積極使用を勧めている部分なんかも評価したい。セカンドオピニオンとかタクティールケアとかリビングウィルの重要性を指摘している辺りでも、自分の思考との共通点を見出しりして。

 

パラダイムシフトでも起こったんじゃないのか?との心配もどこ吹く風、相変わらずの「抗がん剤は効かない」「インフルエンザワクチンを打ってはいけない」の近藤節が炸裂する。新たに子宮頸がんワクチンも激しくディスってる(←NEW)。

 

私の知るところでは、アンチインフルエンザワクチンでその名を轟かせているのは、近藤誠医師の他にも浜六郎医師、林敬次医師、山本英彦医師、母里啓子医師などがいる訳だが、口を揃えて「むしろインフルエンザにかかって免疫をつけると、その後かかりにくくなります」などと愚の骨頂を代表したようなおバカ発言をしてしまうのは残念だ。

 

加えて、「効果が怪しい」「副作用がある」「前橋レポート(http://bit.ly/12BVnjM)を知らないのか」「コクランライブラリー(http://bit.ly/Z7WnWJ)を見てみろ」「製薬会社の陰謀だ」と同じ文言を繰り返しているが、前橋レポートの信頼性が低いことは自明だし(http://togetter.com/li/441229)、コクランはワクチン接種を否定しているわけではない。それから、インフルエンザワクチンには、れっきとした間接防御効があることが知られている(NEJM 2001; 344: 889-896(http://bit.ly/Z7UPMh), PLosOne 2011; 6: e26282(http://bit.ly/12BUKa3))。しかも、どちらも日本の学童集団接種を対象にしたものだ。

 

つまり、インフルエンザワクチンはあなたがたを守るだけが目的じゃなくて、あなたがたがインフルエンザワクチンを打たなかった結果として私達の死亡率が上がるっていうことなの。逆に言うと、私達がインフルエンザワクチンを打っているからこそあなたがたが守られているわけ。「ええどうぞどうぞ、あなたがたはお好きなだけインフルにかかればいいですよ」ではすまされない。あなたがたのエゴで死人が出てる可能性をお考えになって!

 

それから「本物のがん」と「がんもどき」をうまいこと鑑別する方法を示して欲しい。近藤医師の論法は全て後出しじゃんけんだから無敵なのよこれが。「人が死ねば本物のがん」で「死ななければがんもどき」っていうね。「手術や放射線で完治したならがんもどき」っていうね。人が死なないと本物のがんを言い当てられないわけ。その方法を示さないと彼の存在意義ないと思うの。

 

その他にも目を疑う記述も多い。

 

特に看過できないのは「何種類も服薬していて体調がすぐれない、認知症、ふらつきなどの症状が出ている場合は『薬を全部やめてみてください』とアドバイスします。やめても薬効はしばらく続き、なだらかに下降していくので『禁断症状』が出ることなく、ほぼ全員の体調が好転します」のくだりだ。本当にそんなこと言っていいの?

 

急にやめると離脱症状が出る薬剤って少なくないよ。H2受容体拮抗薬とか、ベンゾジアゼピン系や選択的セロトニン再取り込み阻害薬なんかの向精神病薬とか、ドパミン作動薬とか、特にステロイドなんか服用してたら本当にマズいと思うよ。

 

アナフィラキシーショックは『神経系や心臓の生理機能が弱ったりしている場合』に起こる」とかね。生理機能なんか関係ないでしょ。アナフィラキシーショックは生理機能なんかに関係なく起こる時は起こるでしょ。適当なこと言わないで!

 

がん細胞は自分の免疫をかいくぐって出てきたものだから、「どんなに免疫力を高めてもがんを防げない(これは頷けるぞ)」と言った直後に「抵抗力が落ちるとがん細胞が信じられない増殖の仕方をする」と言ってみたり。両者が矛盾していることにお気づきになって!

 

「のどが痛ければハチミツなどをぬれ」「(高熱が出たら)水風呂に入ってみるのもいいかと」「路上生活者や五木寛之が髪がフサフサなのは髪を洗わないから」などと平然と言ってみたりする辺りも、信頼性を落としている所以の一つかとも思う。

 

アルコール摂取のメリットを強調するくだりでは、「エタノールが肝細胞がんの経皮的注入法や静脈瘤の内視鏡的硬化療法に使用されている」ことを引き合いに出しちゃったりしている。それってアルコール飲むのと全然関係ないよね。

 

あとやたらに「ピンピンコロリ」を推奨しているけど、ピンピンコロリって死んだ当人はいいけど、残された家族は大変なの知らないの?気持ちの整理とか色んな手続きとかさ、すごく大変なの。そこらへんを整理してから死んでくれると助かるわけ。インフルエンザの件といい、結局は自己中心的なのよね。

 

印象としては、この著は医療依存度が90パーセンタイル以上くらいに含まれる方々を対象とした場合には、意外に良著となる可能性を秘めている気がするが、残りの人にはほぼほぼ時間のムダというか、むしろ害をなすというか。現実には、「近藤先生がこのように仰ってるぞ!」と医療不信者の方々のプロパガンダになっているわけなのだが。