yocinovのオルタナティブ探訪

安価で安全な代替・補完医療を求めて

「丹羽がん療法」

るいネットでその存在を知った丹羽靱負医師が新著「国際がん学会が認めた、延命効果世界一の丹羽がん療法」を出したので読んでみた。すると中には「丹羽がん療法」が、Integr Cancer Therpublishされたとの記述が。この手のトンデモ系から英語論文が出てくるのは大変珍しい。

 

Integr Cancer Therは、最近何かと話題の統合医療系の雑誌で、Impact Factor2.136。早速取り寄せて読んでみた。

 

この論文は対照群を伴わない単一群の後向き研究。丹羽医師特製の天然の生薬を加工した薬で治療したHCC患者101人を後方視的に解析している。冬虫夏草を含む4種以上の生薬で治療した群で最も生存が延長したと。http://bit.ly/WAfCX2

 

エビデンスレベルは「4」。画一したプロトコールに則った治療ではない可能性もあり、ケースシリーズの扱いで「5」かもしれない。何れにしても「国際がん学会が認めた」「丹羽療法は延命効果世界一」の文言は明らかに言い過ぎで、「あぁそうですか、ハラショー」とは到底賞賛できない。

 

肝心の著書の方はというと、その内容とか質とか倫理的な問題とかそういのは一旦全て横に置いておくとして、その行動力というか執念というか、なかなか真似はできないと思うし、論文にして投稿する努力には一医師として敬意を払いたい。

 

研究化、論文化する努力を一切伴わないトンデモ医療者と比べれば断然に評価すべきだとは思うし、加えてお子様を白血病で亡くされたという背景にも甚だ胸が痛いのだが、そのリスペクトとシンパシーを差し引いたとしても、残念ながら大量にお釣りがきてしまう内容だと言わざるを得ない。

 

丹羽医師は文中巧みに抗がん剤の「臨床試験」を「臨床実験」と言換えて読者にネガティブイメージを植付けようとしている。では伺おう「あなたの治療は臨床実験ではないのですか?」「研究プロトコールはありますか?」「倫理委員会の承認は得ていますか?」「患者さんからICを取得していますか?」と。

 

丹羽療法の前提で最も不可解なのは、常にその対照群を「余命3カ月と宣告され、その大切な時間を、無効かつ有害であることが自明な抗がん剤を無理矢理に投与され、もがき苦しみながら亡くなっていく方々」としている点だ。その対照群なら何をやっても、いや何もしなくても優勢になれるだろうと思う。

 

また、抗がん剤の有効性をRECIST(固形がんの治療効果判定のためのガイドライン)で判定することを繰返し批判しているが、一般的な臨床試験の主要評価項目はRECISTではなくsurvivalであり、治療法の有効性をRECISTのみで判断しているような記載は不適切だと思う。

 

更に「有害事象が全くない」ことも俄かには信じられない。果たして「余命3ヶ月」と宣告されるような方々に、治療期間中に身体的、精神的な異変が全く起きないなんて事は、少なくとも私の経験上では想像すらできない。「副作用が全くない」ならともかく。それでも信じ難いが。

 

自著で持論を展開するのはまあまだ目を瞑るとして、故意か否かは分からないが、その中で抗がん剤gefitinib)を否定する目的で取上げた論文(Lancet 2005, 366, 1527)のmisleadというかmisreadぶりが酷過ぎて笑えない。事実の捻じ曲げが甚だしい(*)

 

丹羽医師が多くの末期がん患者さんとご家族の心を救ってきたのは恐らく事実なのだろうし、彼がそれを自負しているのは分かる。しかし、それが丹羽医師による主張や治療によって害をなされた人がいないということには決してならない。彼の主張により適切な選択肢を放棄した人も少なくないはずだ。これは断じて小さな罪ではない。

 

抗がん剤は使わない方が良い」というのは飽くまでも丹羽医師個人のポリシーであって、その文章にもエモーションが前面に出過ぎている。さも普遍的な意見であるかの如く主張するのはご勘弁頂きたい。かつて苦しんだ人、これまで多大な努力をした人だからと言って、過分に情状酌量されるわけではないだろう。

 

 

(*)当論文は非小細胞肺癌に対するgefitinibイレッサ®)の臨床試験についての報告。

①対象患者は原著では「化学療法抵抗性または不耐容」とあるが、丹羽医師の著では「手術後の再発」と記載している。前者は2nd3rdラインの設定だが、後者なら1stラインの設定だ。

②全体では生存期間の延長は得られなかったが、非喫煙者やアジア系では生存期間が延長される可能性があることについては紹介されていない。

PR以上の腫瘍縮小効果は、原著では8%となっているが、著書では60%と記載されている。「60%に腫瘍縮小効果があるにもかかわらず生存が改善しないのは、副作用により免疫力がが極端に落ちるからだ」という論旨展開をしている。

④原著では、感染症を含む有害事象プラセボ群と明らかな差を認めず、更にQOLや疾患に関連した症状に関してはgefitinib群の方が良い傾向があるとしている。丹羽医師の言うところの「副作用でもがき苦しむ」という印象ではない。

⇒丹羽医師の紹介の仕方では、1stラインの化学療法として、あるいは非喫煙者やアジア系に対するサルベージとしてのgefitinib選択の余地が残されていないことになり、gefitinibによる恩恵を受けられるかも知れない人達の可能性を奪っている。